子どもは何度も風邪を引きますね.

そのほとんどはウイルスによる症状です.子どもさんを育てるにあたっては,風邪の知識が欠かせません.ついでに,その風邪がどんなウイルスの感染によるものか,ある程度は知っておいたほうが良いでしょう.

ここで,代表的なウイルスと,その特徴を簡単に述べておきます.


では,下の図を見てください.


ウイルスの流行には季節性があります.
インフルエンザは渡り鳥が運んできて流行するのですが,その他のウイルスに関しては,なぜ季節性があるのか?はっきり分かっていません.しかし,毎年同じような時期に同じウイルスが流行するので,だいたいの傾向は今後も変わらないと思います.

流行パターンですが,秋が深まって寒さを感じるようになると,赤ちゃんの間でRSウイルスが流行し始めます.それが落ち着く頃,次はインフルエンザです.このウイルスの流行は毎年報道されるので,皆さんもご存知でしょう.インフルエンザは子どもだけでなく,学童や成人の間にも広がるので,社会的なインパクトが強いですね.全国で学級閉鎖が相次いだり,芸能人が掛かって番組を休んだりもします.インフルエンザは春まで流行が続くこともあります.

 3月や4月から流行するのは,ヒトメタニューモウイルスとパラインフルエンザウイルス(3型)です.これらのウイルスはRSウイルスと良く似ていています.わたしが外来で“なんちゃってRSだよ”って言ってるウイルスです.初めての感染の場合には,5日も熱が続き,咳もひどいし,ぜいぜいすることもあるので,お母さんを大変心配させるウイルスです.

 暑くなるとこういったウイルスは少なくなってきて,感染の主役はエンテロウイルスになります.聞きなれないと思いますが,手足口病やヘルパンギーナなどを起こすウイルスです.このウイルスは咽頭(のど)に感染することが特徴で,見た目にものどが赤く腫れますし,口内炎を作りやすいですね.一方,感染がのどに限局するので,咳や鼻といった感冒症状を伴いにくいのです.エンテロウイルスの感染が終わると,真夏になって感染症はすっかり落ち着いてきますが,秋になり,寒くなるにつれて増えていきます.

 上記以外に春と秋に流行するのはライノウイルスです.わたしが外来で鼻かぜウイルス,って言ってるのがこのウイルスを想定したものです.

 低年齢から保育所に行ってると,上記のウイルスにもれなく感染します.1年を通して違うウイルスが流行しますし,特にライノウイルスはたくさんの種類があるので,何度も繰り返し感染します.上記の円を1周目は大変です.2周目は少し楽になります.3周目以降は,子どもが強くなって,ほとんど風邪を引かなくなります.そればかりか,一生体を守ってくれるような,しっかりした免疫ができるでしょう.それまで頑張ってくださいね.

次に,ウイルス別の症状を書いておきます.


1,RSウイルス
 赤ちゃんが感染すると,一番つらいウイルスですね.
RSウイルスは検査で診断することができます.2歳までにはほぼ全員が感染します.薬は効果がありませんので,鼻汁を吸ったり吸入したりが治療の中心になります.
 もともと気管が弱い子どもさんはRSウイルスに感染すると,喘鳴が出て呼吸がつらくなります.逆に考えれば,RSウイルスで入院するくらいのお子さんは,気管が弱い体質を持っているので,ぜいぜいを繰り返したりすることが多いです.
 アレルギーの合併がなければ,自然に粘膜が強くなってくるので,小学校までに治ってしまいます.詳細はこちら

2,インフルエンザ
 インフルエンザは皆さんの関心が高いですね.ただ,子どもにとってのインパクトはRSウイルスほどではありません.鼻汁の検査で診断できます.抗ウイルス薬があって,飲めば多少早く解熱します.熱が勢いよく上がるので,年長児が感染すると,ボーっとしたり,うわ言を言ったりすることが多いです.
 インフルエンザは何度か感染しないと正常免疫ができません.ワクチンの免疫は非常に限定的です.

3,メタニューモウイルス
 これも赤ちゃんが感染するとつらいですね.高熱が続きますし,咳がとってもひどく出ます.治療はRSウイルスとほぼ同じです.まれに肺炎を合併しますので、呼吸が苦しくならないか、よくお子さんを見ておいてください。通常は4〜5日程度で自然に解熱するのですが、終盤に咳が強くなります。解熱後、激しい咳は徐々に改善してきます。

4,パラインフルエンザウイルス3型
 メタニューモと同時か,やや遅れて春から初夏にかけて流行します.症状もメタニューモ,RSウイルスと似ています.仮性クループや喉頭炎を起こしやすく,喘鳴が出たり,独特の咳をすることが多いです.
 パラインフルエンザウイルスを検出する検査はまだありません.流行状況と症状から診断することになります.

5,エンテロウイルス
 暑い時期に流行するウイルスです.  エンテロウイルスというと聞き慣れないかもしれませんが,ヘルパンギーナや手足口病は経験された方も多いのではないでしょうか.これらはエンテロウイルス感染による症状です.
 このウイルスが最初に感染する場所は咽頭や口の粘膜ですので,咳や鼻が少ないです.(他の多くの気道感染ウイルスは鼻から感染するので,鼻汁や咳嗽が出ますね!)その代わり,熱が出たときに,のどの痛みを訴えたり,口内炎が良くできるのが特徴です.
 なお,このウイルスは腸で増えるので,便から広がります.
※ポリオウイルスもエンテロウイルスの仲間です.昔は口からポリオのワクチンを飲ませてましたね.覚えておられるでしょうか?
 
6,ライノウイルス
 成人がライノウイルスに感染すると,典型的な鼻かぜ症状が出ます.のどが痛くなって,鼻水が出て,徐々に咳が出てくる,みたいなパターンです.免疫のない子どもさんでは,もう少し強い症状が出て,熱が出ることもあります.ライノウイルスはたくさんの種類があるので,何度も感染します.子どもの頃に感染して,しっかり免疫をつけておくのは大切なことです.
 注意しなければいけないのは,ダニアレルギーを持っている子どもさんです.ダニは常に吸い込むので,粘膜でアレルギー反応を起こすため,鼻や気管支の粘膜が弱くなってしまっている(専門的には繊維化,って言います.)ことがあります.健康な子どもさんでは鼻かぜでも,粘膜が弱ってしまっている子どもさんはライノウイルスに対して弱いので,アレルギー性鼻炎の急性増悪や,気管支喘息の発作の原因になっています.
 ライノウイルスがやっかいなのは,健康な人には症状が出ないこともあり,鼻に持ってる人が多いのですね.気が付かないうちに,他の人や子どもに感染させてしまうことがあります.

7,その他のウイルス
 他にもウイルスはいっぱいあります.突発性発疹のウイルスとか,アデノウイルス,EBウイルスなどもそうですね.ただ,こういったウイルスは人から人への濃厚な感染があってうつるので,大規模な流行にならないんです.家族内や,保育所内での小規模なグループでの流行になります.ですので,季節性に流行するってことはありません.

様々なウイルスが風邪の原因になります.風邪については⇒こちらの解説も読んでおいてください.

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季節ごとに流行するウイルスについて