RSウイルスは子どもさんがかかるとつらいですね。
また、RSウイルス以外にも同じような症状と経過のウイルスがいくつかあります。“気管支炎ウイルス”って呼んでいるウイルスです。
これらのウイルスの特徴として、感染すると、気道の奥にまで入り込みやすい、ということがあげられます。
ここでは、なぜそうなってるのか?どのようなことに気を付ければ良いのか、解説してみますね。
右の図を見てください。
ウイルスは鼻腔に感染します。
鼻腔というのは鼻の穴から見えるトンネルです。
ちょっとのぞいてみてください。
鼻腔は全て赤いでしょう。これは粘膜といいます。鼻腔から奥の方まで、全て粘膜細胞で覆われているわけです。
気道は人の体の中でもっとも外界の異物が入り込みやすいところです。
ひとつひとつの粘膜細胞は異物を中に入れない、中に入った異物は出すという重要な役割を持っています。
まずは上記の図をよく見てください。
さて、RSウイルスの話に続きます。
RSウイルスは昔からいましたが、人の鼻粘膜に感染することで細々と生き延びてきました。
現代ではRSウイルス感染症が激増していますが、保育所で赤ちゃんが集団生活をすることが多くなったからです。RSウイルスは乳幼児の鼻の粘膜で勢いよく増えます。
右の図は鼻の断面図です。
RSウイルスは赤丸のところに感染します。
このウイルスが特別なのは、粘膜細胞から細胞へ、あちこちに入りやすいことです。また壊れた粘膜細胞やウイルスはネバネバの分泌物になります。これが鼻の奥にたまります。
別ページ鼻副鼻腔炎で書きましたが、鼻腔の横には副鼻腔と呼ばれる骨の部屋があります。RSウイルスに感染するとあっという間に副鼻腔までウイルスが入り込み、ネバネバした膿がたまります。
RSウイルス感染症で問題になるのが、咳がひどいということです。
鼻副鼻腔に溜まった膿は、ちょっとしたことで鼻に出てきて、後ろに流れます。
右上図で後ろに流れ込むと、喉頭があります。
右下に喉頭を上から覗いた写真を示します。喉頭はここから先に空気以外の異物を入れないように守っている肺の番人です。
この喉頭を少しでも刺激すると、激しい咳が出ます。
「気管に食べ物が入ったら咳をする」、って言われますが、実際は気管ではなく、喉頭に入ったときです。なお、異物が気管の奥まで入ってしまうと、かえって咳は出なくなります。喉頭が咳の最大の原因なのです。
RSウイルスに感染すると、2〜3日経つと鼻腔内にネバネバの分泌物が溜まってきます。
それが喉頭を刺激するので激しく咳が出るのです。分泌物が粘っこいほど取り除くのは大変でしょう。強い咳をたくさん出さないといけないわけです。
RSウイルスは感染して徐々に咳が強くなります。ピークは発症後4〜5日です。特に熱が下がりだしてからしばらくが咳がひどいようです。眠れない日があると思いますが、数日内に軽減してきますので頑張ってください。
以下,RSウイルスの大切な合併症のはなしです.
RSウイルスに感染しても,咳で肺を守ってくれるのですが、それでもウイルスは喉頭を越えて下の方まで入ってくることがあります。喉頭の下は気管があります。気管は下で二つの気管支に別れています。
ここまでウイルスが入り込むとどうなるか?
右図のように気管支は細い管です。年齢が低いほど細いですね。気管支の内腔(内側)は鼻や口と同じように、赤い粘膜細胞で覆われています。
この気道粘膜細胞にウイルス(星マーク)が感染すると、ピンクの部分のように気道粘膜が腫れ、気道の中には分泌物がたまってきます(緑の部分)。
※鼻かぜを引いたとき、鼻づまりと鼻汁が出ますね。同じことが気管支の中でも起こっているわけです。
こうなると、ぜいぜい(喘鳴)が出てます。これを喘息性気管支炎と呼びます。喘鳴は気管支粘膜がウイルスに対抗するために腫れていると考えてください。
※なお、鼻副鼻腔炎でも喘鳴は出ますが、気管支まで入り込むことがなければ元気なので、心配要りません。
上の図のように、肺に近づくにつれて、気管支は細くなっていきます。気管支の抵抗にも関わらずウイルスが奥の方まで入ってしまうこともあります。
肺に近いところの気管支を特別に細気管支と呼んでいます。細気管支は糸のように細く、ウイルスが入ってしまうと、ちょっとした腫れや分泌物で空気が通らなくなってしまい,呼吸困難が強くなります。この状態を細気管支炎と言います。RSウイルスのとっても大切な合併症です。
細気管支炎を起こすのは主に1歳までの赤ちゃんです。特に生後6ヶ月までは注意が必要です。
危ない呼吸困難の動画はここ
※呼吸の速さと、お腹がペコペコするところに注目してください。
※細気管支炎の症状は喘鳴よりむしろ呼吸数が多いことです.お腹がペコペコしながら,普段よりずっと早く呼吸しているのは,気道の抵抗が上がって一生懸命に呼吸を行うからです.こういった症状にはご注意下さい.喘鳴があっても,体の色や呼吸数が普段どおりならば重篤ではないので,夜間等慌てて受診する必要はありません.
年長の子どもや成人では細気管支炎にはなりません。なぜかというと、免疫があるからなのです。(RSウイルスをやっつける抗体を持っているということです。)細気管支や肺の周りはたくさんの血液が流れています。血液の中にある抗体がRSウイルスが入ってくるのをブロックするわけです。
なお、未熟児や早産の子、心臓に病気のある子どもさんはRSウイルスの抗体を注射しておくことで重症を防ぐことができます。
RSウイルスは毎年かかることもありますが、一番症状が強いのは、初めて感染するときです。
初感染のときには、熱は4〜5日から1週間続くことも稀ではありません。朝には熱が下がっても、夜に上がることが多いです。最初は咳は強くないですが、徐々にひどくなります。
しかし、何度か感染して免疫を付けておくと、感染しても熱が長引くこともなく、症状も緩くなっていきます。感染するたびに強くなるってわけです。最初は大変ですが、それで子どもさんが強くなるわけです。
治療について
RSウイルス感染症や細気管支炎は世界中で子どもたちを悩ませており、どのような治療法が有効なのか、長い間研究されてきました。ここに分かりやすくまとめられています。
(英語ですが、興味のある人はどうぞ。)
残念ながら、これだ!という有効な治療は見つかっていないのが現状です。
一般的なカゼ薬は飲ませないで下さい。鼻を止める薬(抗ヒスタミン剤)は分泌物が粘っこくなり、呼吸困難を増やすと考えられています。当然ながら咳止めも飲ませるべきではありません。
喘息と似たぜいぜいが出るので、気管支拡張剤を飲ませることは良く行われていますが、効果はほとんどありません。気管支拡張剤の飲み薬や貼り薬は、心拍を増やしたり、手足が震えたりして眠りにくくなり,QOLを下げるので使わない方が良いと思います。気管支拡張剤を投与するなら吸入で行います。
このように薬には効果は期待できないのですが,RSウイルスは鼻汁の中にたくさんいます.ウイルスを減らす方法として,鼻を吸引して除去する方法があります.また,鼻腔を奥まで吸引し、分泌物を取り除いてあげれば,呼吸が楽になります。自宅でもできるだけ吸引してあげてください。
鼻を除去できたら、生理食塩水を入れてあげれば、少し粘膜の腫れが取れます。生理食塩水は外来で処方もできますが、薬局にも売ってます。
最終手段として、気管支拡張剤の吸入とステロイドの内服を組み合わせると、呼吸困難のリスクを少し減らすことができるようです(参考文献)。、もっとも、これは入院費用が高額な米国での話です.日本では気軽に入院管理できるし、費用もそれほど高くないために、中等度以上の呼吸困難が出るくらいなら入院しておけば良いと思います。病院で特別な治療があるわけではないのですが,苦しくなってもすぐに酸素が使えるので,安全だからです.
入院の目安は酸素飽和度が90%未満になることです。逆に考えれば、呼吸困難さえなければ、症状がひどくても時間が経てば必ず治ってきます。
治癒後の話
RSウイルスは治った後にも咳や鼻の症状がなかなか治りません。鼻副鼻腔炎による症状です。また、分泌物がたまっているため、次にカゼを引くと、鼻汁や咳嗽がひどくでることになります。治ってからもカゼを悪化させる質の悪いやつなのです。
以下は,当院でのRSウイルス感染症の治療方針です.
1,2歳未満の初感染の子どもさんはハイリスクと考える.
年齢,月齢が小さいほど呼吸困難のリスクが高い.しかし,何度目かの感染と分かっていれば,リスクは低くなる.
2,リスクが低い子どもさんに関しては初診時に診断後,注意点を説明して経過観察を指示.状態に応じて受診してもらう.投薬はほとんど効果は期待できない。当院では薬を処方することはない。
3,ハイリスク児(呼吸困難リスクがある)と考えた場合は,1〜2日間隔で通院.来院時には呼吸困難の有無と,全身状態を評価.酸素飽和度を測定する.
来院時には鼻腔吸引を行い,高張食塩水+気管支拡張剤の吸入を行う.
連休など,受診間隔が開く場合には,自宅での鼻腔吸引と吸入ができるようにする.
4,RSウイルスの初感染では,通常は3〜7日間発熱が続く.病後期になるほど細菌による二次感染のリスクがある.血液検査を行い,CRPが5.0以上になれば抗菌薬を併用する.
5,全身状態が悪化する場合,中等度以上の呼吸困難が出現しSpO2が92%未満となれば入院管理とする.
6,RSウイルスは症状が強く,他院で様々な投薬が行われているときがある.基本的には薬は必要なく,鎮咳薬 ,抗ヒスタミン薬などがあれば,呼吸困難リスクを上げることがあるために,服薬を中止してもらう.