ここでは、乳幼児の普通のカゼについて書きます。
※2024年2月追記
当院ではカゼと診断することはありません。より正確な“ウイルス感染症”とお話させて頂くことが多いです。
ただ、一般的にはカゼでいいですよ。
乳幼児の熱、咳、鼻のほとんどはカゼによるものです。
じゃ、カゼって何だろう?これが意外に難しい。
カゼは
ほぼ自然治癒が見込める軽症のウイルス感染症
のことです。
ウイルスが感染する場所によって、鼻かぜ、のどかぜ、気管支カゼ、お腹のカゼ、皮膚のカゼ、等とお話しています。
実はカゼがどのような経過で治るかは誰にも分かりません。発熱が1日で下がるのか、1週間続くのか、咳は軽くて済むのか?ひどくなるのか?どんなに名医でも予測することは不可能なのです。
ただ一つ確かなことは、どのような経過を取ろうとも、最終的には治る、ということです。
※ごく稀ですが予測が難しい合併症が出ることもあります。子どもさんの様子を良く見ておくことは必要です。
ここでは、もっとも一般的な上気道のウイルス感染(鼻かぜ、のどかぜ)について書いてみます。
かぜを起こすウイルスは、いきなり体の中に現れるわけではありません。
「体を冷やしたからかぜ引いた」というのは迷信です。
それならエスキモーはずっとカゼ引いてるよ、、ってお話することがあります。
ウイルスは必ず外から体の中に入ってくるものです。
じゃ、、どこから入るのでしょう?
人間の体の表面は皮膚で覆われています。皮膚は非常に強固なバリヤーであり、皮膚からウイルスが入ることはありません。
(皮膚に直接感染するウイルスはあります、、、水いぼのウイルス等ですが、体の奥には入りません。)
皮膚がないところはどこでしょう?
そうです。眼や鼻の穴、口からウイルスが入るのです。
※ちなみに肛門からも感染します。エイズのウイルスが有名ですが。
その中でも、感染経路として最も多いのは、、、
⇒鼻ですね。ずっと空気を吸い込んでいるところですから、異物が入りやすいのは当然です。
右上の図を見てください。
多くのウイルスは鼻の穴から感染して、その奥で増殖します。
赤く囲んだ部分です。
ウイルスは鼻に入って増えます。
今度は右下の模式図を見てください。
1、発熱について
ウイルスは鼻の粘膜(赤い湿ってるところ)の細胞に入り込みます。
ウイルスが増えるときに熱が出ます。
実は、ウイルスは体温(37℃付近)で最も増えやすく、、39℃ではほとんど増えなくなります。体を守るために体温を上げて、ウイルスを増えないようにしているのです。
ちょっと難解かも?
ウイルスの本体はDNAやRNAなどの遺伝子です。
遺伝子は複製⇒複製を繰り返すので、ものすごい勢いで増殖します。
ですが、ウイルスは単独では増えることはできません。
酵素と呼ばれるたんぱく質を使って増えるのです。
酵素は温度に敏感です。温度が上がると働けなくなります。
そこで、体は自然に体温を上げて、酵素の働きを止め、ウイルスを増えないようにしているのです。
注)だからと言って無理やり体温を上げることは止めてくださいね。自然に上げるのが良いのです。
2、鼻閉、鼻汁について
ウイルスに感染した!という情報は、細胞から細胞へ伝わります。
鼻粘膜の細胞が協調して、できるだけ奥にウイルスを入れないようにします。
その結果、粘膜が腫れて(右図 ピンク色の部分)鼻づまりの症状が出ます。
細胞の中でウイルスが増殖すると、細胞を壊してしまいます。壊れた細胞からウイルスがたくさん出てきます。
放っておくとさらに他の細胞に感染することになってしまいます。
できるだけ体の外に出してしまう方が良いですね。だから鼻水が出るのです。右上図水色の部分です。
かぜが長引くと、鼻水のネバネバが強くなります。
ネバネバが強くなるのは壊れた粘膜細胞の破片を白血球(好中球)が取り込むからです。黄色い鼻水を顕微鏡で見ると、無数の好中球が見えます。鼻副鼻腔炎といって、奥に溜まることも多いものです。
3、咳について
鼻腔や口腔、咽頭にウイルスが感染しても咳は出ません。喉頭(右写真)に入ると咳が出ます。
カゼの初期には咳は軽度です。だけど、上に書いたように、カゼが長引くと分泌物がネバネバになります。鼻副鼻腔炎を起こすためです.
ネバネバが強いほど、除去するためにより強い力が必要になるため、咳がひどくなるのです。
カゼの後半に咳が強くなるのはこういった理由です。
なお、カゼの症状の中で咳が最も長引きやすく、数週間から1ヶ月くらい続くことも多々あります。
特に保育所など行ってれば、カゼのシーズンはずっと咳をしているということも稀ではないですね。
カゼウイルスは何百種類もあるので、何度も感染を繰り返すことによるものです。
このように、発熱、鼻汁、咳嗽でカゼウイルスを撃退するのです。
一言で書くと
熱・鼻・咳は体の味方!
ということになります。
4、おう吐、下痢について
カゼを引いたとき、おう吐や下痢が見られることもありますね。これは何故でしょう?
ウイルスは鼻に感染します。多くのウイルスは喉頭の方に流れやすいのですが、飲み込むと食道から胃に入ります。
胃や腸の粘膜にウイルスが感染すると、おう吐があったり、下痢をすることになります。
また、ネバネバの分泌物がのどを刺激して、おう吐反射を起こすこともあります。
これも、ウイルスを追い出すための反応と思ってください。
激しいおう吐、下痢がない限りは、経過を見てもらって結構です。
カゼの時に大切なこと
1、安静にする。
これが最も大切です。熱があるとき、眠れないほど咳をしているとき、食欲が落ちているときは、保育所や幼稚園は休ませてください。
2、すぐにエネルギーとなる糖分を取る。
できるだけ糖分を補給することは、悪い合併症の予防にもなります。
糖分は、でんぶんのことです。おかゆや、うどんなどが良いと思われます。
3、水分は欲しがるだけ与えてください。
ただし、急激に熱が上がるときには水分は欲しがりません。汗をかかなくなって体に水がたまるからです。
熱が上がりきってから与えてください。
お茶より、ジュースとか、アクアライトのようなイオン水が良いと思います。
4、熱が上がって震えている時には暖かく、上がりきったら涼しく、が基本です。
無理に体を暖めないで下さい。自然にクーリングすることは、脳症などの合併症の予防にもなります。
5、咳や鼻は空気が乾いているとひどくなります。部屋の加湿をして下さい。
気道粘膜(鼻、のど、気管などの粘膜)の細胞は、湿っている方が抵抗力があるし、再生しやすいのです。湿度を上げることは気道を守ることにつながります。マスクができれば、マスクをして下さい。
6、小さい子どもさんで、ネバネバの鼻汁がひどいときには、吸引してあげて下さい。
吸引機は薬局で売っています。鼻を吸った後に、生理食塩水を入れてあげてください。鼻づまりが改善します。
当院では鼻洗水を処方していますが、中身は生理食塩水と重曹です。
7、痰が絡んで激しく咳をするときにはハチミツが有効です。暖かいお湯にといて飲ませてください。
1歳未満はボツリヌス菌感染の危険があるので止めてください。1歳を過ぎれば大丈夫です。
8、お風呂について
高い熱、食べれない、ひどく消耗している場合には、安静を保つために、入浴は控えましょう。
それ以外の時には入っても大丈夫です。熱いお風呂に長時間入れたり、お風呂が終わった後に濡れたままにしておくのはやめておきましょう。
※治療について
基本的にカゼに治療は必要ありません。
原因はウイルスですから、抗生物質は効かないですし、下痢の原因となって症状が長引きます。
咳止め、鼻を止める薬も不要です。
咳止め(アスベリン)を服用すると、かえって咳が治りにくいことがわかっています。 ここ
その他、風邪薬について科学的な分析はこちらのサイトです。
厚生労働省や米国FDAから乳幼児にカゼ薬を飲ませないように勧告が出ています。
こちらのサイトを参考にして下さい。
2019年1月 問い合わせが多いので追記します。
かかりつけの先生について
実は小児医療で、風邪はもっとも診断が難しい分野です。風邪診療の訓練を受けていない医師ほど、処方される薬が多くなってしまいますし、肺炎や喘息、中耳炎等と過剰診断される頻度も高くなります。不要な治療が行われやすいということです。
子どもの風邪に薬は不要で、むしろ有害です。かかりつけにされるのは、できるだけ薬の少ない先生にして下さいね。