鼻副鼻腔炎について


鼻副鼻腔炎について


当院では長引く咳や鼻が長引くとき、鼻副鼻腔炎ですね、、とお話することが多いです。
そこで、鼻副鼻腔炎とは何か?ここでできるだけ分かりやすく解説しておきます。

英語でカゼのことをRhinosinusitisと言います。実は、これを直訳すると鼻副鼻腔炎となります。つまり、鼻副鼻腔炎はカゼと同じ意味です。長引くカゼは鼻副鼻腔炎と考えてください。

???ですね。

まず、カゼのことを思い出してください。

右の写真は矢状面と言って、顔を左右に分割して見た図です。
カゼは、ウイルスが鼻の粘膜について発症します。
(丸を付けた部分です。)

矢状面では、鼻の奥はこんなに広く見えますが、実は細長い構造になっています。

同じ部分を冠状面と言って、前後に分割してみるとどうなるか?

それが右下の図です。これは、MRIという機械で顔の断面図を撮影してものです。液体の多いところは白、空気が多いところは黒に写ります。

眼球は液体のたまった球ですので、白く丸く写ります。上の矢状面の図で鼻の中の空気の通り道は大きく見えますが、実際は右図“鼻”のように縦に長い隙間しかありません。正確にはこの部分を鼻道と言います。
その下に白く丸く写っているのが下鼻甲介です。ここは粘膜で覆われており、血流が多いので白く写ります。
鼻道は隙間のようになっているため、周辺の粘膜が腫れるとすぐに鼻は詰まってしまうわけです。

実は鼻の中には、上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介という3つの骨が翼のように張り出していて、わざわざ空気の通り道を細くしているのです。これは空気の中に含まれる異物をできるだけ体の奥に入れないようにするためです。

鼻の上と左右には副鼻腔という空気が入った部屋があります。ここは鼻とつながっています。

カゼの初期にはBの写真になります。
Aの写真と比較してください。鼻のところが白くなります。これは、カゼと戦うために下鼻甲介の粘膜が腫れるからです。さらにウイルスは鼻から副鼻腔まで入り込んで、粘膜の炎症を起こします。Bの写真で副鼻腔の壁が白くなっているのが分かると思います。

カゼを引いて、しばらくすると、Cの画像になります。
両目の間と下の副鼻腔のところが大きく白くなってます。これは、副鼻腔粘膜にまでウイルスが広がったため、分泌物がたまったものです。

ウイルスが鼻に感染した場合、それを追い出すために鼻水が出ます。前に流れた場合、鼻水となって排出される。後ろに流れれば、咳になって、痰や嘔吐で口から出るか、食道から胃に飲み込んで、胃液で溶けてしまいます。

しかし副鼻腔に溜まった場合、前後に出て行くところがないので、そのまま溜まってしまうわけですね。こういう状態を副鼻腔炎と言います。なお、小さい子どもほど、構造的に鼻と副鼻腔は一体になっています。そのため、鼻の炎症はほとんどの場合副鼻腔に波及します。ですので、鼻副鼻腔炎という呼び方が正しいのです。

大人の副鼻腔炎では、激しい症状はでませんが治り難いものです。蓄膿と言われて、何年もかかっている人がいるでしょう。ちなみにわたしも軽い蓄膿があります。10年くらい続いています。職業柄、子どもたちのウイルスをいっぱいもらうので、仕方ないと思っています。

一方、子どもは副鼻腔と鼻道の交通が良いので、中に溜まった分泌物が出てきやすいのです。鼻副鼻腔に溜まった分泌物が出てきて、粘っこい鼻水や、湿った咳がでます。特に夜間は横になるために、鼻が後ろに流れて湿った咳が出ることが多いのです。

Cの写真の状態は2週間から長いときには4週間くらい続きますが、やがて自然に治ってくることが知られています。咳や鼻を出すことが重要です。こういった症状が出るからこそ治るというわけです。

しかし、乳幼児の特性として、ウイルス感染を反復するということがあります。特に保育所などでは感染の反復を避けることができません。鼻副鼻腔炎が治りきるまでに次のカゼを引くと、いつまで経っても症状が良くならないということになります。兄弟がいる場合も同じです。



咳や鼻が続くことに不安感を持つ方が多いですが、こういった理屈を覚えておくと、不安感が少なくなるのではないでしょうか。

なお、ウイルスによって鼻副鼻腔炎の重症度が違います。喘息性気管支炎や細気管支炎の後に鼻汁、湿った咳が続くことがよくありますね。これは粘膜を伝わって奥に入りやすいウイルスほど鼻副鼻腔炎がひどく、長引く傾向にあるからです。喘鳴(ぜいぜい)が出やすいウイルスほど、鼻副鼻腔炎がひどくなりやすいということです。

※RSウイルスにかかった後、長く咳や鼻が続いたという経験をお持ちの人も多いでしょう。

カゼに対して強くなれば、このようなことも少なくなってきて、徐々に症状はマシになります。要はカゼ(ウイルス)に対する免疫を付ければ良いのです。小さい頃にしっかりした免疫を付けておくことは、将来のためになるのですね。

鼻副鼻腔炎の治療ですが、特にこれといったものはありません。いかなる経過をたどろうとも最終的には自然に治るからです。ただ、経過中は下に書いたような合併症に注意しておいてください。こういった場合には治療が必要になることもあります。

鼻副鼻腔炎の合併症

1、鼻副鼻腔の貯留液の中に肺炎球菌やヒブ菌などの悪い菌が住み着くと、菌血症などの原因となります。そういった感染を防ぐためにも、できるだけ早くワクチンを受けておいてください。
ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンが済んでいれば、ほとんどの菌血症が予防できます。

2,鼻副鼻腔炎の経過で,鼻汁中の細菌が増えすぎて,感染を起こすことがあります.これを細菌性副鼻腔炎と呼びます.症状は高い熱です.ただ,ウイルス感染症だけでも高い熱を出すことがあるため,鑑別のためには血液検査を併用します.CRPという炎症の指標が高くなっている場合に細菌性副鼻腔炎と診断します.診断されればワイドシリンという抗生物質を5日間服用してもらいます.


3、鼻と目はつながっています。鼻腔の菌が目に入ることで結膜炎を起こします。また、鼻汁を拭いた手で目を触ることも原因となります。

4、小さい子では鼻と耳のつながりが良いために、鼻副鼻腔炎があれば、耳にも膿が溜まっていることが多いです。溜まっているだけだと治療は不要です。ただし、そこから痛みや熱がでて急性中耳炎を起こすことがあります。中耳炎の治療方針についてはこちらを参照してください。

5、鼻副鼻腔炎が治るまでに、次のウイルス感染を起こすと症状が悪化しやすいです。ときにウイルスが気管支まで侵入し、喘息性気管支炎や細気管支炎を起こします。ぜいぜいが強く、息苦しそうなら受診してください。


乳幼児はカゼが長引くし、その多くで鼻副鼻腔炎を起こしてきます。
しかし、上記したように鼻副鼻腔炎は決して悪い病気ではなく、ほとんどの場合治療も必要ありません。

日本では医療機関へのアクセスが良く、ちょっとしたカゼ症状でも病院を受診されることが多いです。そこで、鼻副鼻腔炎に対してさまざまな薬が投与され、効果がないからと次々にクスリが増えていることがあります。咳や鼻が長く続くので、どうしても過剰に治療されがちなのですが、事実はそれほど治療の必要もありませんし、合併症にだけ注意して、自然に治るのを待っても良いと思っています。

あまりに続く場合は抗生物質を飲んでもらうこともありますが、効果のほどは?、、疑問符ですね。特に1〜2歳まではウイルスの関与の方が大きいので、抗生物質が効く場合は少ないと思われます。


治療が必要でなくても、診断が必要な場合は多々あります。
ご心配であればいつでも受診してください。




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