風邪引きの咳で眠れない赤ちゃんへ

赤ちゃんの咳,大変ですよね.

特に夜間に咳き込みで起きちゃうと,可哀相だし,お母さんも眠れません.
赤ちゃんの咳は子育ての負担を一気に増やしてしまうものなんです.

咳止めなんて飲ませても,効いてるのか,効いてないのか分からない.
実際、効果なんてありませんし危険なだけです。
ですので、ちゃんと診断できているお医者さんほど,小さな赤ちゃんに咳止めは出さないと思います.

ところが、なぜこんなに赤ちゃんが苦しんでるのに,何もしてくれないんだ.
「放っておいて良いのか?」
なんて怒られちゃうこともありますね.

じゃ,なんで咳で眠れないのでしょう?
理由が分かれば対処しやすいかもしれません.

分かりやすく解説してみます.

※ここでは,もっとも一般的な赤ちゃんの咳のことを解説します.
 中には危ないのもあるので,変だな?いつもの咳と違うな?って思ったらお医者さんに行って下さいね.

赤ちゃんは免疫があるから風邪を引かない?って良く言われますが,そんなことはありません.普通に風邪を引きます.

お母さんからもらった免疫は,体の奥は守ってくれますが,体の表面は守ってくれません.
風邪のウイルスは鼻の粘膜(赤い湿ったところ)に感染するのですが,ここまで免疫は届かないわけです.

風邪を引くと,最初は鼻が出ますね.鼻は徐々に粘っこくなります.
赤ちゃんは鼻をかめません.その代わり,粘膜の繊毛構造はしっかりあって,自然に鼻が出るようになっているのですが,あまりに粘っこい鼻だとそれも役に立ちません.

ですので,赤ちゃんの鼻の奥にはネバネバした青い鼻がたまることは良くあるのです.これを鼻副鼻腔炎って言います.
要するに風邪が長引いて,奥に鼻がたまっちゃった状態です.
一般的には,風邪が長引く=鼻副鼻腔炎,って理解で良いですよ.

ネットで調べると,タレントのくわばたさんのHPに ここ



鼻水パラダイス!!
可哀想に30分置きに起きて…
眠たいから、目擦って 鼻擦って また目擦って…
顔中 鼻水パラダイス。
化粧水なら良かったけど、カピカピなっとります。

(引用終わり)

って記事が掲載されていましたが,まさにこれが赤ちゃんの鼻副鼻腔炎です.
大変ですね.今はもっと大きくなってると思いますが,頑張って下さい.

くわばたさんに代弁してもらいましたが,同じ思いをされているお母さん,たくさんいるでしょう.

下の図を見て下さい.



これは成人の図ですが,赤ちゃんも基本的には同じです.

皆さんは,空気をどこから吸ってますか?

口から吸ってる?そんなわけないですよね.
本来は口は食物の通り道です.空気の通り道は鼻なんです.
そうでないと,食べられませんよ.

もちろん,鼻づまりの強い人は口で呼吸するでしょうけど,それって少し意識しないとできないでしょう.

ヒトは鼻で呼吸するのが自然であり,口で呼吸するのは,意識しないとできない!

ってことを覚えておいて下さい..

さらに

赤ちゃんは,口の中で舌が占める割合が大きく,大人よりも口で呼吸しずらい.

ってことも.

さて,赤ちゃんが風邪を引いたします。
風邪というのは別ページでも説明しましたが,鼻にウイルスが感染するために起こります.治るまで数週間続くのが普通です.

上に書いたように、風邪が長引くと,鼻がネバネバ,青っぽくなってきます.
くわはたさんのお子さんもたくさん鼻が出ているように見えます。ところが、前から見えてる鼻水なんて,ほんの一部です.
実は大部分は奥に溜まっているんですね.上図の赤いところです.

赤ちゃんはこの部分が小さいので,ネバネバが溜まるとすぐに詰まってしまいます.

なお,赤ちゃんは舌がとっても大きく,口の中がとっても狭いでしょう.これは,母乳を吸うときに舌を使って強い陰圧を作るようにするためです.口の中が大きいと,吸い込むのが大変です.ヒトは進化の過程で,風邪に対応するより,母乳を飲むことを優先したのです.アフリカで人類が進化していた時代は人口密度も低く,もちろん保育所もありません.赤ちゃんが風邪引くなんてことは想定されてなかったわけです.

ここで,考えてみて下さい.
これを読んでいる方、寝てるとき,鼻が完全に詰まってるとどうですか?

めちゃくちゃ寝苦しいでしょう.大人だってそうなのですから,口で呼吸しにくい赤ちゃんはなおさら眠りにくいわけです.成人なら鼻が無理なら口で呼吸しようって思いますが,赤ちゃんにはそんな意識はありません。.

息ができない,だけど酸素が必要だから無理やり空気を吸い込むでしょう.
すると,鼻に溜まったネバネバの鼻汁を一緒に吸い込んでしまいます.

ここでのポイントは、赤ちゃんののどの構造にあります。
実は赤ちゃんののどは大人と違い、喉頭が高いところにあります。
鼻の後ろがすぐ喉頭になっていると考えてください。


ネバネバの鼻汁がのどに入ると,激しく湿った咳が出たり,「オエッ」って吐いたりってことがあります.

粘り気が強ければ強いほど,外に出しにくいので,咳が激しくなりますね.
だから,風邪の後半の方が咳が強くなります.粘り気がなくなって,鼻が固まってくると,流れませんので咳が少なくなってきます.

ここまで読んで気づかれましたか?

実は、赤ちゃんは咳で眠れないのではありません.多くの場合、分泌物で鼻が詰まるから眠れないのです.




さてさて、どう対処するか?考えてみましょう。お薬は効く?でしょうか。

1,咳止め
 これは逆効果ですね.分泌物を吸い込んで咳をするのだから,咳反射を止めちゃまずいでしょう.そもそも,乳幼児には咳止めは効果はなく,副反応もあるため,
投与してはいけないとされています.特に、赤ちゃんに咳止めを飲ませてはダメですよ.


2,鼻止め
 鼻を止める薬は抗ヒスタミン薬ですが,飲むと鼻が少なくなります.一見良さそうですが,鼻の粘度が増えてしまうんです.さらさら鼻より,ネバネバ鼻の方が赤ちゃんを苦しめるわけですので,鼻止めは飲ませてはいけません.


3,咳止めのテープ(右図)
 これもお母さんに人気ですね.飲ませる手間もないし,手軽に使用できるからでしょうか.

 このテープは咳止めではなく,気管支拡張剤です.

 気管支拡張剤を貼ると息が楽になる??

 なんてことはなく,これはもともと重い喘息の子どもさんの発作を抑えるための薬で,気管支(右下図参照))を広げるのです.
 鼻の湿った咳が喉頭に入って,咳で一生懸命だそうとしているとき,咳の瞬間に気管支が“キュ”って瞬間的に収縮します.気管の中の圧を高めて,喉頭に入った痰を口の方に飛ばすのです。

 ここでテープを貼って気管支の収縮をじゃますると,咳のときに気管の内圧が上がりにくくなり,痰を出しにくくなっちゃうんです.

 ですので,湿った鼻の咳のときに,このテープを貼っちゃうと,赤ちゃんはかえって苦しいってことになってしまいます.

 それなのに、たくさんの方が、この薬は良い咳止めになる!と感じているようですね。以下で少し詳しくその危険性を解説します。

 このテープは薬ですが、貼っていると目に見えるでしょう。「咳止めのテープ」という誤った説明がされていることもよくあります。

 そのような状況で医師から処方されるわけですから、テープには極めて大きいプラセボ効果があります。

※プラセボ効果
「偽薬効果」ともいう.効果のないはずの成分でつくられた薬剤(偽薬)によってもたらされる効果.

 つまり、多くの人が“効いたように思う”わけです。実はプラセボ効果は、ほとんどの風邪薬が効くと思われている原因です。乳幼児に風邪を飲ませても、科学的には何の効果もありませんが、みんな「効く!」と思って欲しがるでしょう。まさに薬は“信じていると効く”のです。

 プラセボ効果でも効くなら良いじゃないか、と思われる方もいるかもしれませんが、このテープは持続性の気管支拡張剤です。こういった作用のある薬は、気道過敏性を上げることにつながってしまいます。ごく簡単には咳や喘鳴が出やすい、喘息体質を人為的に作ってしまうわけです。

 最大の問題は、小児医療では、プラセボ効果は母親が感じるものです。“効く”と思い込んでしまうと、咳をするとテープをやたらと貼ってしまいがちになるということです。咳してる!じゃ気軽に貼って咳を止めてやろう、って思ってしまっている方はいませんか。そういった思い込みは、真の効果がないばかりか、長期的には子どもの成長と発達に悪影響となってしまっています。
 

 お母さんは赤ちゃんの症状を見ますからね.それを止めてあげたい,って気持ちは痛いほど分かるのですが,その症状があるから治っていくんです.年齢が小さければ小さいほど,症状は抑えないほうが良いってことがほとんどなんです.

以上の理屈を分かっていただくのが当院の仕事なんです.

ただ、短い診察時間で納得してもらうのは難しい。ネット上でも長く論争が続いています。もしかすると効くかもしれないから処方すれば良いじゃないか、と考えている医師もたくさんいます。しかし、その結果、プラセボ効果→お薬を欲しがる患者さんをたくさん作ってしまっています。

わたしは患者さんに誠実でありたいので、そういう医療が嫌いなんです。
ですので、風邪の病態を理解してもらおうと思い、様々な情報発信をしています。

じゃ,どうすれば良いのでしょうか?

やっぱり一番良いのは,鼻を吸って取ってあげるということです.
鼻を吸う器具は安いですから,1つくらいは買っておいて下さい.
吸い方が分からないなら,当院で指導しますので受診して頂ければ良いですよ.

鼻を吸った後で,粘膜の腫れを取るような点鼻液をたらしてあげられればよりベターです.これは処方します.




最後に,,,

薬はありません,って言うと
「こんなに咳してるのに,放っておいて良いのですか!」
なんてびっくりされることがあります.

薬を飲まさない=放っておく,とは違いますよ.
むしろ,わたしから見ると,薬を飲ませて何もしないってことの方が嫌ですね.
咳してる赤ちゃんに,テープ貼っておけば止まるだろう,,って考えるのは,,,,申し訳ありませんが,ダメダメです.上に書いたように,かえって苦しめてるだけなのかもしれません.

赤ちゃんを治すのは,薬じゃありませんよ..お母さんの力なんです.
放っておいてはダメ,吸えるようなら鼻を吸って,加湿して,できるだけ鼻を取ってあげる,咳が苦しければ少し水分を取らしてあげる.すると痰が胃の方へ落ちて楽になります.
1歳過ぎなら蜂蜜を試してみて下さい.
※1歳の誕生日まではボツリヌス菌の危険があるのでダメです。


息ができない,苦しい赤ちゃんをただ見ているだけってのはつらいでしょう.
ですが、ここまで書いたように、わざわざお医者さんに行かなくても、ご自分で対処することができるんです。
お医者さんからもらうのはアドバイスだけ、お薬は要りません!ってことを分かっておいてください。
薬なんかよりそういった家庭での対処の方がずっと大切なんです.

人間をひとり育てるのって,ものすごく知識も経験も要ります.
頑張って下さいね.当院も応援しています。

※全国のお母さんへ 
できるだけお薬の少ないお医者さんをかかりつけにして下さい.

風邪のとき、薬が少なければ少ないほど、お子さんのことを考えて診療してくれている信頼できるドクターです。

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