インフルエンザワクチンの接種について



インフルエンザワクチンをお子さんに接種すべきかどうか、悩んでいる方もいると思います。

当院からは、

どっちでも良いよ、お母さんが決めてください

って言ってます。



そんなの困ります、はっきりしてください!、、、なーんて言われちゃうのですが、このワクチンに関しては家庭の事情を考えて接種すれば良いというのがわたしの考えです。

にしむら小児科に行くと他のワクチンは強く接種を勧めるのに、インフルエンザはなんで?って思われるかもしれませんね。できるだけ分かりやすく解説してみます。


そもそもインフルエンザワクチンは効くのか?って話ですが、大昔には効かないと疑われた時代もありました。実際、ワクチンを接種しててもインフルエンザにはかかります。効いてないじゃないか、って思われても仕方ありません。過去のいい加減なスタディでは効果なし、って判定されたこともあります。

ですが、現在市販されているワクチンは、全て“効き”ます。その効果は世界中で証明されています。その点はご安心下さい。



“効く”ならインフルワクチンも接種すれば良いじゃない、って思われますよね。
ただし、事はそんなに単純じゃない。だからわたしも悩んでるのです。
ワクチンは単純な“効く”か“効かない”かの二者択一では語れないんですよ。


ワクチンはたくさんありますが、その効果はそれぞれ違います。例えば麻疹(はしか)ワクチンですが、2回接種すると、ほぼかかりません。かかっても、ホントにはしか?ってくらいの症状です。麻疹ワクチンの効果は極めて高いのです。

※他にもヒブ、肺炎球菌も良いですね。ヒブのひどい感染症は10年前まではいましたけど、いまはゼロになりました。子宮頸がんワクチンも素晴らしい。何と言ってもガンを防いでくれるんですからね。ぜひ接種しましょう。



ところが、インフルワクチンは、効くのは確かだけど、わたしもそれほど効果を実感しません。接種しても「かかっちゃった」、ってお子さんは毎年何人もおられます。

ちなみに、わたし自身ははここ何年も接種していません。それでもインフルエンザにはかかりません。
医師になったあと何年かは何度もインフルエンザに罹りましたけど、その後は記憶にないです。

だって、毎年のようにインフル患者をたくさん診て、みんな目の前で咳してくれるから、山のようにウイルスをあびてるのです。ですので、ワクチンを接種しなくても、ウイルスそのものが毎年体に入ってきてるんです。わたしはワクチン接種で出来るよりはるかに強い抗体を持ってるのは確実です。

なお、クリニックのスタッフはほとんどの方は毎年接種します。ただ、入職間もない方はワクチンを接種してても必ずインフルエンザになっちゃいますね。その一方、古株の方々(看護師の〇〇さんとか)は、接種されません。それでもまったく大丈夫です。わたしと同じ理由です。

要するにインフルエンザの抗体は、かかってしまうのが最強>>>>>>ワクチンでできる抗体

なんです。



小児科に勤めてるみたいな特殊な環境だとそうなんですが、1回や2回かかったくらいではそんなに強力な抗体はできません。普通の職業の人は接種した方が予防になります。特に保育士さんや学校の先生は自分が感染するとお子さんにうつしちゃいますしね。会社で働いている人も、できるだけ感染しない方が会社に迷惑をかけません。仕事内容にもよりますが、社会人はできるだけ接種しましょう。


ん?「お金がかかるし、痛いのやだ?」、、、、、なに言ってんですか。
ワクチンは社会生活をするためのコストです。電車賃みたいなものですから、そのくらい払ってください。


インフルエンザワクチンの効果ですが、接種したお子さん、接種しなかったお子さんでの比較が毎年行われています。10年間のデータはココにまとめがあるのですが、低い年で19%、高い年で60%くらいのようですね。平均すると50%くらいってところでしょうか。

50%も効くならすごいじゃないか、って思われますよね。ただ、ここでちょっと立ち止まって考えてみましょう。
そもそも「ワクチンの効果」って何の数字?この問いに正確に答えられる人はいるでしょうか?









答え)ワクチンの効果が〇〇%、というのはリスク比のことです。






?????、、、、ですね。

こういうの、普通の人は計算したことがないでしょうし、ピンと来ないかも。


リスク比とはずばり、「暴露群の非暴露群における疾病の頻度の比」です。
ワクチン接種群と、ワクチンを接種しなかった群での発病の頻度の比、と考えてください。



????  また分からなくなりました?



じゃ、例を出します。

200名のお子さんを集めました。
100名にはインフルワクチンを接種しました。100名は接種しませんでした(コントロール群と言います)。


ワクチン接種した100名のうち、10名がインフルエンザを発症しました。
一方、接種しなかった100名のうち、20名がインフルエンザを発症しました。

ワクチンを接種した場合、そのシーズンには10/100 = 0.1  10%のお子さんがインフルエンザを発症します。
接種しなかった場合には、そのシーズンに20/100 = 0.2  20%のお子さんがインフルエンザを発症します。

リスク比を計算すると   (10/100) ÷ (20/100) = 0.5 (50%)
となります。

ワクチンの効果が50%、、というのはこのくらいのイメージです。

毎年この数字は必ず統計学的に有意になります。つまり、医学の世界では効いていると判断できます。
なお、インフルエンザにはA型、B型があります。B型にはワクチンの効果が悪いことがあって効いてない年もあります。



話がややこしくなりました。いったん休憩します。







インフルエンザには毎年1000万人が感染すると推定されています。国民10人に1人がインフルエンザになっちゃうんですね。大変な数字です。これを罹患率と言うのですが、ざっくりとした計算で約10%です。なお、子どもの罹患率は高く、20%くらいではないかと考えられています。子どもの方が過去に感染した回数が少ないのと、学校等で集団生活するのが普通だからです。



わたしが悩んでるのは、その子どもに接種するかどうかです。皆さんもそうでしょう。


インフルエンザって、薬もあるけどそれほど効くものじゃない。小さい子がかかると4~5日も高い熱が続くし、可哀想でしょう。お母さんだって大変です。仕事も休まないといけない。インフルエンザ脳症っていう怖い合併症が出ることもあります。インフルエンザからお子さんを守りたいって気持ちは痛いほど分かります。ところが、上に書いたように、ワクチンでできる抗体は弱いのです。
現在のインフルエンザワクチンは、完成度が低いと言わざるを得ません。



インフルエンザによる死亡者は1万人くらいとされています。ほとんどは高齢者の肺炎です。高齢者は肺の病気を持っていることが多く、インフルエンザウイルスが増えやすいのです。

子どもでは肺炎はあまり問題になりませんが、脳症が問題になります。インフルエンザに初めて罹った時に多く、脳の血管炎を起こすので命に関わったり、後遺症を残すこともあります。脳症は年間数十例から100例くらい発症します。


ですので、お子さんがワクチンしなかった場合、ざっくりとした計算ですが
約20%の確率でインフルエンザにかかってしまい、その中で3-5万人に1人が脳症を発症します。なお、脳症の発症は初めての感染で高いことが分かっています。
※インフルエンザになった後に慌てて薬を服用しても、脳症は防げません。


計算すると、お子さんが不幸にもそのシーズンに脳症を発症するリスクは15-25万分の1ですね。

ワクチンを行えば、そのリスクが半分になると思ってください。なお、保育所や幼稚園、学校に行ってないお子さんだと、そもそも罹患リスクが少ないので、その効果も数分の1になる計算です。


ここまで理解されたでしょうか?


以上のことから計算すると、ワクチンを接種して減らすことのできる脳症リスクは、30-50万人に1人ということです。それを高いと見るか、低いと見るかはご家庭の判断です。


人は社会生活をしている限り、いろんなリスクと向き合っています。
毎年100人に1人は何かの理由で亡くなっています。アメリカでは数万人に1人、ヨーロッパでは10万人に1人、(元ネタは ここから)、日本では40万人に1人が毎年殺人事件の犠牲になっています。雷に打たれて死ぬのは70~80万人に1人くらいです。

インフルワクチンで守られる命は、“落雷死を防ぐ”よりは大きく、“たまたま殺されるのを防ぐ”のと同じくらい、って考えてください。なお、ワクチンでアナフィラキシーが起こる確率は100万接種に1回ですので、2回接種すると50万分の1のリスクになります。
※目の前でアナフィラキシーショックを起こしても、ちゃんとした医療機関なら何とかしますけどね。

脳症だけに限った話ですが、インフルエンザワクチンはそれほど小児の死亡リスクを減らすことにはつながっていないのが現状です。

また、危険性の高いウイルスはインフルエンザだけじゃありません。赤ちゃんにはインフルエンザよりもRSウイルスの方がずっと危険です。ここ

悪いことにインフルエンザワクチンを打つ頃って、だいたいRSウイルスの流行期と重なるんです。赤ちゃんにインフルエンザワクチンを接種するために混んだクリニックに行ってRSウイルスに感染したなら、逆に危険にさらすことになります。ワクチンを接種するときには、ちゃんと隔離して接種してくれるクリニックに行ってくださいね。他の風邪の子と一緒の部屋でワクチンの順番待ってるなんて論外ですよ。


最大の問題はインフルエンザは任意接種ですから無料ではないってことです。1回接種すると2000~4000円のコストがかかるでしょう。例えば、1回4000円の2回接種だと、1人につき8000円かかります。家族5人毎年みんな接種しなさい?って言われるとちょっと厳しいですよね。

※ちなみに米国では定期接種です。ここに情報がありますが、無料でしかも接種すればギフトカードもらえるとか

乳幼児はインフルエンザ、RS以外にもウイルスに感染します。しょっちゅう熱が出るじゃないですか。実は様々なウイルスがインフルエンザと同じように脳症を起こしたり、肺炎だって起こします。殊更にインフルエンザだけが危険なわけでもないのです。それなのにインフルエンザウイルスだけにそこまでお金をかけてもな~、というのがわたしの正直な感想です。ワクチンがあることで、かえって注目されてしまうってことでしょうか。



じゃあ、なんでインフルエンザワクチンを接種しろってうるさく言われるのでしょうか?実は、インフルエンザワクチンの最大の効果は、子どもや学童に接種することで社会全体を守るってことなんです。こういうのを集団防衛と言います。

1990年頃までは学校で一斉にワクチンをしてたのです。その時には学校で感染するお子さんが減るので、社会全体としてもインフルエンザの患者が減った。結果として一番守られたのは老人です。実際、当時はインフルエンザで亡くなる老人は少なく、学校での集団接種がなくなった途端、インフルエンザシーズンで亡くなる老人が増えました。  ここ

※現在は65歳以上の老人は定期接種になっています。

社会のためにワクチンは接種しないと、、、、って思いますか?

子育て世帯はお金がないんです。ボランティアじゃあるまいし、毎年何万円も出して家族全員に接種し、社会を守るなんてちょっとおかしい。
インフルエンザワクチンを接種して欲しければは、国がお金を出しなさい!つまり定期接種にするのが筋だと思うのですが、ワクチン反対派が根強くいることもあって、そこにいかないんですね。もっと世論を盛り上げて、そんなに接種を勧めるなら無料にしろ!って言い続けましょう。


※大事なことですが、ワクチンは全て接種しないって人の言うことは聞いてはいけません。
彼らは危ない新興宗教みたいなものです。宗教の勧誘でお金を取られるくらいなら良いですが、ワクチンは場合によっては命に関わるものです。子育て中のお母さんが引っかかってしまうと、子どもの一生を台無しにすることもあります。怖いですよ。彼らの存在が、様々なワクチン行政の足を引っ張って、皆さんに負担をかけているということもあります。 ここ



そろそろまとめに入ります。

インフルエンザワクチンは“効き”ます。だけど、結構高いし、接種した子どもを守る効果はわずかです。


当院にはいろんな子どもさんが通院しています。経済的に厳しい家庭もあります。みんな子どもさんを大切にしています。接種してあげたい、だけどお金がな~、って方もきっといると思います。ワクチン打て!ってあまりに強調すると、そういう人が気の毒かな、とも思ってます。





結論として

このワクチンは、お金に余裕があれば接種してください。多少は効果がありますし、接種率が上がるほど社会全体が守られます。
そうでない場合は、貯金を削ってまで接種するほどのワクチンじゃないです。



なお、接種した方が良いと思うお子さんを重要な順に

・呼吸器系に基礎疾患のある子
・その他の障害、基礎疾患がある子
・お受験前

・学校や幼稚園に行ってる
・保育所に行ってる
・注射が好き    そんなのいるのか??


となります。赤字のお子さんは貯金を削っても接種してくださいね。


最後に、インフルエンザワクチンの価格は各医療機関でバラバラです。どこで接種しても同じですので、安いところで接種してください。


当院は3歳未満 2000円 2回接種、3歳以上では3000円 原則として1回接種 となります。

なお、当院の経営は火の車です。(たぶん、大阪で一番人件費がかかってる小児科クリニックです。)残念ながらワクチンの価格はこれ以上下げられません。他に安いところがあるかもしれません。探してください。



PS たまにインフルエンザワクチンは接種するけど、子宮頸がんワクチンは接種しないって子がいますね。必要性は子宮頸がんワクチン>>>>>>>>>>>インフルエンザワクチンです。しかも子宮頸がんワクチンは無料です。対象年齢のお子さんはインフルを接種するくらいだったら子宮頸がんワクチンを接種してくださいね!



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