にしむら小児科の診療ポリシー



以下に当院の診療理念を書いておきます。

私の考えは、
1、子どもの視点で見る
2、子どもの将来を考えた診療をする
というものです。

これは多くの子どもさんの成長と発達を見てきた、小児科医独特の
視点かもしれませんね。

私は病院に勤めていた時代、とっても重い病気を持った子どもさんに
関わっていました。

白血病とか、膠原病、糖尿病、細菌性髄膜炎などの重症の感染症、重症喘息、
呼吸不全、重症のアトピー、新生児疾患、先天異常、重症の川崎病、腎炎、
ネフローゼ等々です。

大半の子どもは元気になりましたが、亡くなった子もいますし、
後遺症を残した子もいます。
重症の病気には治療が必要だし、治療の方法もあります。


その後父親が体の具合が悪くなったために、当地で開業したものです。

一転して、現在開業医として外来に来られる子どもさんを診察すると
症状の多くは風邪によるものです。
発熱、はな、せき、ぜいぜい、おう吐、下痢などですね。

そういった病気には、、、、正直に書きますが、治療はできません。
風邪はウイルスによるもので、効く薬はないからです。

じゃ、小児科開業医って何ができるのでしょう。
実は、何もできません。小児科開業医って要らんのかも?(苦笑)

海外では小児科を専門とする開業医はほとんどありません。
あっても気軽に受診できません。
病院を受診することも日本よりずっと少ないのです。
入院もほとんどなく、あっても2泊3日くらいで退院となります。

翻って日本ではどうか?
軽い風邪でも病院を受診することが多く、そこに治療として
様々な薬が投与されるため、世界でも特別な
「やたらと風邪を治療する」国となっています。

日本の医療制度はフリーアクセスで、どこを受診しても良いので
患者さんも○○医院で薬をもらったが治らない。今度は××医院へ
行こうって思いますよね。
とにかく患者さんを納得させるために、医療機関同士が
サービス合戦のように薬を出してしまっています。

薬を処方すると、親御さんは満足されることが多いのですね。
病院も親御さんを納得させるために薬を出さざるを得ない
ということもあります。

しかし、子どもは不要な薬を飲まされて、迷惑がっているのかもしれません。

薬が使われすぎているので、薬剤耐性菌が増えたり等の弊害もあるのですが、
最大の問題は風邪でも薬がないと不安、という親御さんが増えたことです。
風邪で薬をもらう、ということが当たり前になってるのです。

風邪に抗生物質は効きません。
また、風邪薬で、熱を下げたり、鼻水、咳を止めたりすることは、
本当の病気を治すには逆効果です。風邪は熱、鼻、咳で治るからです。

じゃ、風邪薬って何ためにあるのでしょう?



答えは、一時的に症状を抑えるためです。治すためではありません。

大人なら「「風邪薬」が必要でしょう。
自分の体より仕事を優先しなければいけないことが多いからです。

お父さんは仕事があるでしょう。お母さんは子どもの世話もしなければいけない。
とにかく症状を抑えて、仕事をこなさないといけないわけです。

わたしだって、39℃の熱が出てるのに、無理やり解熱剤で熱を下げて
夜間の当直をこなしたことが何度もあります。
救急を受診する子どもさんより、自分の方がずっと重症でした(苦笑)。

一方、子どもはどうでしょう?
大人のように症状を抑えるべきなのでしょうか?

私はそうは思いません。
子どもは成長・発達していくもので、未来があるのです。
無理に症状を抑えて、やらなければならないような社会的責任もありません。
ということは、子どもは、“治る”ことを最も重視しなければいけません。
解熱剤、咳止め、鼻止めは、病気の症状を抑える薬です。
治ることを邪魔してしまうことになるので、なるべく飲ませない方が良いのです。

また、こういった薬は、大人用の薬を量を少なくして、慣例的に
子どもに投与しているだけです。
実際にはほとんどの薬は効果がなく、副作用の方が心配なために
乳幼児には飲まさない方が良いとされています。

※2019年に当院が中心となって、子どもの風邪に咳止めが効くのか
調べましたが、飲んでる方が治りにくかったですね。(参考文献
子どもの風邪に、咳止め、鼻止めは有害です。止めましょう。



こういった事情から、当院では風邪薬はほとんど処方しませんし、
家庭で対処できることをお話させて頂いているだけです。
その他の薬も最小限度にしています。


小児のプライマリーケアの仕事として、当院が必要だと思っているのは

1、 まずはワクチンです。

 ワクチンを接種していれば、子どもたちにとって危険な病気のほとんどが予防できます。過去の間違った報道から、ワクチンは恐いものというイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。小さい子どもに風邪薬を飲ませるほうがよほど危ないですよ。
(ワクチンは乳幼児死亡率を劇的に下げますが、風邪薬はわずかながら死亡率を上げるわけです。)
 また、熱や咳が出たとき、ワクチンをしていれば悪い病気の可能性はグッと減りますので、安心感が違います。子育てのストレスを減らすこともできますね。


※ワクチンはできるだけかかりつけで接種して下さい。ワクチン接種歴がカルテに残った方が、その後の診療がやりやすいからです。例えば4種混合ワクチンを接種していれば、咳が続いていてもまず百日咳ではないと判断できます。お子さんが接種しているワクチンを把握しておいた方が、感染症は診断しやすいというわけです。

2、 アレルギー診療

 アレルギーの診療も行っています。皮膚が弱い子、気管支が弱い子はたくさんいますね。それだけなら大きくなったら治るのですが、アレルギーを作ってしまうとやっかいです。できるだけ将来のアレルギー発症を抑えるように生活指導や投薬をしています。
 子どもは成長し、将来は社会に出て行かなければいけません。そのときにひどいアレルギーがあれば、社会生活する上でのハンディキャップになってしまいます。目の前の症状を抑えることより、将来大きくなったときにひどい症状を起こさないことを考えましょう。

※アレルギーは体の中にある細菌の多様性が失われるために起こるものです。抗生物質を繰り返し飲むと、将来のアレルギーや免疫病を増やしてしまいます。

3、 子育て支援

 現代の子育てはストレスがいっぱいで、余裕のないお母さんが多いです。家庭のストレスが大きいと、ついつい子育てがおろそかになったり、子どもに切れて怒ったりしてしまいませんか?その気持ちもよーく分かります。

 母親のストレスは 子どもの精神的な成長に大きく影響します。そこで、当院はできるだけお母さんがストレスなく子育てができるような事業を行っています。

 まず、保育所が足りないために働けないお母さんが多かったので,特に不足している2歳児までの保育所を作っています.小さな保育所ならではの,家族的なつながりを大切にしています.家庭機能を維持し,子どもの成長と発達を助けるためです.

 また、子どもを保育所に預けて働いているお母さんにとって、病気のときに預かってもらえないというのは大変です。小さい子どもが集団生活すると、ウイルスに感染する機会が多く、熱、咳、鼻、ゼイゼイが頻繁に出ます。安静を守ることと他児への感染を防ぐために、保育所を何日か休まないといけません。しかし、その度に休んでいれば仕事を続けられないでしょう。そこで、病気の際に子どもを預かることができる病児保育室を作りました。さらに,保育所で熱が出たときのお迎えは、お母さんにとっては大変な負担です。いつ熱が出ないかとストレスを抱えながら仕事をするのは嫌でしょう。そこで、保護者の方に代わって、当院からお迎えに行くことで、安心して仕事ができるようにしています。家庭でのストレスを減らし、良い子育てをして欲しいからです。

 どうしても子育てが難しい子どもさんもいます。こだわりが強い、落ち着きがない、発達に問題がある、そういった子どもさんが増えているのは事実です。特に発達障害のある子どもは専門の目から見た子育てのアドバイスや、療育、言語訓練などが必要になります。そのための施設が発達支援ルーム“みらい”です。こういった施設を作ったのは、生まれつきの多少のハンディがあっても、大きくなったときに解消できるように、また子どもさんひとりひとりが持つ可能性を十分に発揮できるようにして欲しいという気持ちからです。障害児を育てているお母さんは大変でしょう。そういった人の力になりたかったからです。


 外来をしていると、とにかく子どもの目の前の症状に振り回されているお母さんが多いです。良い子育てをするには、部分的な症状こだわるのはダメで、子どもの全体を見ることが大切です。

まとめると、、
私は、今の子どもを見るのではなく、5年先、10年先にその子どもさんがどのような成長・発達をしているかを大切にしています。それが小児科医として最大の使命だと考えているからです。

目の前の熱、鼻、咳より、子どもの未来が一番大切だと思いませんか?


以下は、付け足しです。

4、子どもの成育環境を考える

 受診する患者さんには直接関係ないかもしれませんが、ここで書いておきます。

 子どもたちの生育環境は年々悪くなってきています。子どもの貧困率は世界でも最低レベルだし、虐待は年々増えている。離婚率も上がっているので、家庭の崩壊も進んでいますね。
 その結果としての少年犯罪の増加、不登校、引きこもり、ニートなどで社会に入って行けない人間が増えるなど、社会全体に影響を及ぼしています。

 子どもが将来の社会を作るわけで、子どもの育ちが悪ければ、社会全体が悪いものになってしまうでしょう。しかし、子ども達が自ら社会に働きかけることはできません。

 そこで、小児科医が子どもの代弁者となって、社会への様々な提言や、啓発活動を行うべきだと考えています。こういった社会活動をアドボカシーと言うのですが、小児科医の大切な仕事の一つです。

 具体的には学会や医会を通じた情報発信、柏原市の次世代育成計画への参入、小児医療を少しでも良い方向に進めるための臨床研究、論文を学会誌に書くことなど、様々な活動をしています。