機能性腹痛について
機能性腹痛って、ものすごく多い病態なのにきちんとした解説が少ないです。子どもの慢性腹痛でもっとも多いと思うので、ここで解説してみます。

まず、胃や腸は消化管って言いますが、寝てるときも起きてるときも常に動いています。これをぜん動運動って言いますが、言わば全自動のシステムですね。お腹が減ると腸が勝手にグーっとなったりするでしょう。また、ご飯を食べて「さあ、今から腸を動かすぞ!」なんてわざわざ思わないでしょう。消化管は意識しなくても勝手に動いて、食べ物を分解して吸収してくれるのです。これは、自律神経が働いて、消化管をコントロールしてくれるからです。

消化管には食道から胃、小腸から大腸まで含まれますが、ややこしいのでここから先は主に腸の話になります。


上記のように、腸は特に気を使わなくてもだいたいは上手に動いてくれています。なお、子どもの腸は大人より丈夫ですよ。成長と発達のために栄養分を吸収しないといけないので、ものすごく活発に動いてくれます。成人は食べ過ぎてお腹を壊す人もいるかもしれませんが、子どもって多少食べ過ぎても大丈夫です。
※逆に肥満に注意!


そんな腸ですが、体の状況に応じてものすごくダイナミックに調整されています。例えば、あなたが大きなスポーツの大会に出場するとします。出番の前は緊張してトイレに行きたくなるでしょう。出場中はどうですか?トイレに行きたくなる?そんなことないでしょう。大事な時には腸は静かになるのです。

大昔、人間は集団で狩りをしていました。狩りの途中にトイレなんて行ってる暇ないでしょう。トイレ中に動物に狙われたら危ないし。だから大きな“緊張”を強いられるイベントの前には腸からの排泄を促して、イベントの間はそれを感じないように体がプログラムされているんです。

現代社会はいろいろとストレスがあって緊張や不安を感じる場面が多い。年中“狩り”してるようなものです。腸が激しく動いたり、動きにくくなったり、不調になりやすい環境にあるのです。

次に痛みの話です。実は腸そのものは痛みを感じないんですよ。腸を針で突いても何も感じません。じゃあ、腹痛ってなんで起こるの?って言うと、腸の壁に過度なテンションがかかるときです。お腹を壊して下痢をすると痛いでしょう。ばい菌が入って早く追い出そうと腸が激しく動くと、腸の壁が引っ張られて痛いんですよ。簡単に言えば動き過ぎると腸は痛い、ということになります。


ここでポイントです。腸は消化吸収のために常に動いています。その痛みをどの程度感じるかは、人によってものすごく差があります。すぐに痛みを訴える子、がまんする子、何も感じない子、様々です。また痛みをすぐ言葉にする子、言葉で表現しない子もいます。すぐに口にするのは鬱陶しいかもしれませんが、言語化できる方が良いこともあります。

さらにその日の体調によっても違います。人間は“不安”があると痛みを感じやすくなります。大きな大会の前にお腹が痛くなったことはありませんか?たぶん、多くの方は経験があるでしょう。腸の痛みはものすごく“気持ち”にも左右されるものなのです。

ここまでのまとめ
1、腸は動き過ぎると痛い
2、腸の痛みを感じるかどうかは子どもによって差がある
3、不安を感じると痛みを感じやすくなる

「よくお腹を痛がります」、ってお子さんは多いでしょう。当院の外来でも多々受診されます。何か病気が隠れているとまずいので、お腹のエコーや血液検査で調べますが、異常が見つからないことが多い。器質的な病気(虫垂炎とか腸炎等です)がない腸からの痛みを「機能性腹痛」と呼んでいます。その多くは上で説明したような病態です。

機能性腹痛かそうでないかは、話を聞けば分かります。チェックポイントは
1、体重減少がない
2、腹痛は自制できる場合が多い。夜間睡眠中はほとんどない
3、血便はない
4、発熱がない
くらいです。逆に上の4つのうちどれかあれば、ほぼ器質的疾患ですので、違ったアプローチが必要です。

機能性腹痛と診断されて、「本当の病気じゃないんだ。心配要らない、放っておこう。」なんて考えるあなた、それは間違いです。器質的な病気ではなくても本人が痛ければそれは病気です。“痛み”は生きていく上で最大のストレスです。改善する方法を考えてあげなくてはいけません。ただし、ちょっとしたコツが必要ですね。

保護者が自分自身の不安を解決するためにあちこち病院を受診したり、薬で治してくださいって言われる方もいますね。自分の経験だと、こういう家庭のお子さんはほとんど悪化します。深みに入ってこじらせるとホント厄介ですよ。器質的疾患ではないのだから、子どもを変えようとはしないでください。

じゃあ、どうすればええんや!って突っ込みが入りそうですが。病態を考えればわかります。機能性腹痛はものすごく簡単に書くと「腸が動くのを感じ過ぎている」わけでしょう。

とすると、以下の2点が重要です。
1、腸が動き過ぎるのを避ける
2、痛みを感じにくくする

まず、腸が動き過ぎるのを避けるってどうすれば良いの?って思われるかもしれません。実は現代的な食事は腸を無理やり動かすものが多いのです。誰でも美味しいものは食べたいですが、それってヒトがもともと必要なものではなく、現代社会が作り上げた食生活です。美味しい=体に良いなんてことはないんですよ


例えば香辛料って知ってますか。コショウとか。香辛料はお肉をものすごく美味しくします。ヨーロッパの人がはるばる香辛料を求めてアジアに来て大航海時代が始まった。当時は命がけの航海ですよ。それだけ人々は美味いものを求めるのですよ。ところが、香辛料そのものには栄養なんてありません。実は香辛料は腸を刺激して食欲を増すためだけのもので、栄養的には不要なんです。コショウはたまたまお肉を美味しく食べるために見つかった植物で、そうなると狂気のように人はコショウを求めます。(コショウってお金の代わりに使われた時代もあったそうですね。)



その他にも美味しいものはたくさんあるでしょう。現代社会は資本主義ですから、美味いもの(人々が求めるもの)を提供する方が経済的に豊かになる。そうして、ますます腸を刺激する食事が普通になってます。普通の食事がそもそもやりすぎになってるのに注意が必要です。現代の食事は慢性的に腸を刺激しているようなものなんですね。

機能性腹痛があるお子さんには、腸を刺激するような刺激物は避けましょう。
※だからと言って粗食にしなさいってわけでもないですよ。子どもには十分なカロリーが必要です。適度な味付けで美味しいものを作ってあげてください。

自分は専門じゃないですが、以下は個人的な経験談(笑)。
食材は極端に油の多いのは避けましょう。お肉を食べるなら霜降りよりも赤身肉で。牛肉よりも豚肉が良いです。できるだけ揚げ物は避けます。週に1回くらい。食物繊維は食べた方が良いかな。ヨーグルトの効果は正直言って良く分かりませんが、好きなら食べても良いのじゃないかな。マクドナルドやケンタッキーはちょっと味が濃いかな~。月1回くらいにしておくのが良いと思う。

次に痛みを感じにくくするのはどうでしょう。これは感覚の問題です。一番ダメなのは、「痛いって言うな、我慢しろ!」って指導ですかね。子どもが痛いと訴えるのは原則的には保護者に聞いて欲しいからなんです。そこで煩わしさのあまり聞いてあげないと、そのうち子どもは黙って痛みをこらえるようになってしまいます。
⇒これが一番まずい。

誰でも痛いときには親しい人に「痛い」って訴えるでしょう。痛みはひとりで感じるのでものすごく孤独です。そこでほんのちょっぴりでも他人に共感を持ってもらうと、痛みは軽くなるものなんです。子どもが「痛い」と言ってきたときこそチャンスです。訴えを聞いてあげて、十分に共感してあげてください。その繰り返しが治療になります。


※身体的なストレスは、言語化できた方がその後の人生を生きやすいです。こういった“治療”はお子さんのその後の人生のためになるのですね。


最後に、様々な緊張や不安が「痛み」を感じやすくするのです。不安や緊張をうまく言語化できる場合は良いのですが、言葉にできない子ほど機能性腹痛を起こす傾向にあります。家庭や保育所、学校などで具体的な原因がないかを探してください。原因が見つからないこと、解決できないことも多々あると思います。具体的に見つからなくても、成長期には誰だって漠然とした不安は持っていますよ。「学校は楽しく行ってます。」って大部分の親御さんが答えるのですが、集団生活では大なり小なり、ストレスを抱えるものです。ストレスのない学校生活なんてありえません。

原因がはっきりしなくても、保護者が優しく接することで緊張や不安が軽減されればそれで良いのです。昼間は仕事をしているお母さんでも、夜にお子さんと一緒にお風呂に入ったりご飯を食べたり、遊んだり、ゲームしたり、色々ですね。お子さんを笑顔にすることが最大の治療だと思いますよ。


※腹痛で日常生活が困難になるほどなら、専門的な環境整備とカウンセリングが必要になってきます。発達支援ルームみらいのスタッフがチームで対応するので、ご相談ください。



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