赤ちゃんの食事

赤ちゃんに何を食べさせれば良いのか、悩んでいる人が多いようですね。


赤ちゃんを育てる基本は、ご飯を食べさせることです。そこで、赤ちゃんの食事について、できるだけ分かりやすく解説しますね。




 

赤ちゃんの食事の基本は母乳です。
産まれて1時間以内に母乳を開始してくださいって言われてますが、これは、特に発展途上国において、できるだけ早く母乳を飲ませておいた方が赤ちゃんの死亡率が下がるからなんです。

母乳ってすごいパワーでしょ。



母乳はお母さんの体で作られるものですが、2億年以上にわたる哺乳類の歴史、700万年の人類の歴史で、赤ちゃんの死亡率を下げるようにひたすら進化してきたものです。母乳は赤ちゃんを守ってくれる魔法のご飯です。

以下、理屈っぽいですが。

母乳中には多くの細菌が含まれ、赤ちゃんの腸に定着することで腸を守ってくれます。実際、新生児室ではミルクより母乳の赤ちゃんの方が腸の病気が少ないのです。

さらに、多くの免疫物質が含まれるので、赤ちゃんを様々な感染から守ってくれます。母乳育児を行っている子、母乳をまったく飲ませていない子では、感染症の経過に差があることも分かってます。できるだけ頑張って飲ませてあげてくださいね。

※わたしも昔にRSウイルスに感染した時、母乳とそうでない場合で差があるかの研究をしたことがあります。母乳を飲んでいるお子さんの方が重症化しにくいことが分かりました。ここ

ということで、原則は母乳を推奨します。ですが、母乳が出ないお母さんもいますよね〜。その場合は無理しなくて良いです。努力しても出ないのなら普通の粉ミルクで構いません。日本は先進国だから、感染症等で多少のハンディがあっても、ちゃんと育ちます。母乳育児は絶対なものじゃなく、できないときは仕方ない、くらいに思っておけば良いですよ。

ただし、せっかく母乳が出てるお母さんは、簡単にやめないで下さい。

母乳に関する良くある誤解をあげておきます。

・母乳を通して卵や牛乳などのアレルギー物質が赤ちゃんに入り、湿疹がひどくなる。

 これは典型的な食物アレルギーの誤解です。湿疹はアレルギーとは関係なく、赤ちゃんの皮膚の細菌叢(バイオーム)の変化によって起こっているものですので、食物とは何の関係もありません。食物アレルギーの皮膚症状はじんましんであって、湿疹じゃないんです。詳しくは別のコラムを参考にされてください。むしろ食べさせることが食物アレルギーを防ぐわけですので、お母さんはたくさん食べて、いっぱい母乳を与えてください。


・薬を飲んでいると母乳をやめなさいと言われる。

 お母さんが病院で風邪薬とかもらって、「念のため母乳は飲ませないで下さい。」って言われることがあります。しばらく飲ませないと、母乳は止まっちゃいますよね。普段赤ちゃんの診療をしない施設だと、なんとなく止めとこうって話になっちゃうのですが、それは誤った指導です。
 母乳中に多少の薬は移行しますが、風邪薬や抗生物質程度では止める必要はありません。(でも、お母さんもできるだけ無駄な抗生物質は飲まないようにして下さいね!)。母乳を止める必要があるのは、抗がん剤や一部の麻薬、ホルモン剤くらいで、ほとんどの薬は大丈夫なんですよ。(母乳と薬についての情報はこちら
 特にお母さんが風邪(≒ウイルス感染)を起こした時、赤ちゃんにうつっちゃうじゃないですか。こういった場合に母乳は大活躍するのです。お母さんの体は免疫的に完成していますので、ウイルス感染症に対する抗体がたくさん作られます。それが母乳中にも出てくるので、赤ちゃんを守ってくれるんです。



ところで、母乳の成分って知ってます?

約9割は水分です。その他の大部分は乳糖(グルコースとガラクトース)と脂質、蛋白質がちょっぴり入ってます。母乳のカロリーの半分は脂質(脂肪分)なので、脂っこいジュースって感じでしょうか。夏場で母乳だけでは脱水が心配だからと、他に水を飲ませる人がいますが、必要ありません。そもそも母乳のほとんどは水分です。胃腸炎でおう吐、下痢がある場合も母乳が最優先です。

エネルギーは100mlあたり65カロリーです。これは他の粉ミルクでもほぼ同じです。

では、次に月齢毎にどういう食事にするのか、具体的に考えていきましょう。

生後〜4ヵ月まで

 できるだけ母乳のみを与えましょう。母乳が出にくいときには粉ミルクを足します。母乳が足りているかどうかは、体重の増えを見るのが一番です。母子手帳の線を下回ってしまうようなら、ミルクを足すようにすれば良いでしょう。それでも体重が増えないときには小児科で相談してください。

5ヵ月〜

 そろそろ離乳食の準備です。ところで、離乳食という言葉は実は問題があるのです。だって、この言葉、母乳を止めて、その分を食事に代えていくのだって誤解されてしまいますね。離乳食は本当は補完食と呼びます。母乳やミルクはそのまま続けて、それで足りない栄養を“補完”するわけです。

WHOの補完食のガイドラインからですが下図を見てください。



要するに、生後6ヵ月を過ぎると、母乳やミルクだけではいろいろ足りなくなるのです。
そこを“補完”するために食べさせないといけないので、5ヵ月頃からその準備に入るのです。

以後、ここでは離乳食という言葉は使わず、補完食としますね。
聞きなれない言葉ですが、ホントはこっちが正しい日本語ですので慣れてください。

さて、ここで問題です。

補完食は何を食べさせるのが正解でしょうか?












実は、補完食として食べさせるものは、国によって非常に幅が広いのです。様々な文化のもと、ありとあらゆるものが補完食になっています。

ですので、補完食として何を食べさせれば良いのか、には正解がありません。大人が食べられるものならおおむね何でも良いのです。気楽に考えてください。


ただ、食べさせて危険なものは避けなければいけません。

そこで、第二の問題です。


危険な食物って何でしょう?食べることでヒトが死んでしまうくらい危険なものってあるでしょうか?考えてみてください。

アレルギーの原因となる卵でしょうか?それとも環境ホルモンが入ってるかもしれない母乳?粉ミルクは牛が飲むものでヒトに飲ませるなんて間違いだ!って言ってる妙なグループもあるようですが。。牛肉食べないんでしょうかね??

※その昔、ヒトは死んだ動物の骨髄を食べていたのです。骨髄は骨の中にあります。骨を割る必要があったために、道具が発達し、道具を使える方が生き延びることができたので、どんどん頭が良くなったんです。そんな風に考えたら何を食べても大丈夫って思えますよね。













食物でヒトが死ぬ最大の原因は誤嚥です。要するにのどに詰まらせることで窒息するのです。老人に多いですが、赤ちゃんも誤嚥での死亡事故がありますね。年間数十人の乳児が誤嚥で亡くなっています。

次に危ないのは食中毒です。これも年間10人前後亡くなっています。

※乳児の食中毒の死亡は数年に1人です。肉や生ものを食べないので成人のような食中毒はほとんどありません。ただ、ハチミツはダメです。ボツリヌス菌がいるからです。

それ以外に、食物そのものが原因で赤ちゃんが死亡することは、ほぼ皆無と言って良いでしょう。





そんなバカな!ソバや卵はとっても危険だって聞いたよ。

って人もいるかもしれません。確かに以前に給食で死亡事故がありました。
赤ちゃんの頃から卵をまったく食べていないと食物アレルギーが重症化してしまい、大きくなってから食べると強い症状が出るのです。食物アレルギーの死亡に正確な統計はありませんが、報道を見る限り10年に1人くらいの割合でしょうか。極めて珍しいからこそニュースになるのです。

犬が人を噛むのはニュースになりません。だけど、人が犬を噛むとニュースになるでしょ。それと同じことです。メディアの情報は極めて偏ってるので注意して下さいね!


なお、赤ちゃんの死亡例は、探しても見つかりませんでした。

ということで、赤ちゃんの食で気を付けるのは

1、誤嚥を起こさない
2、食中毒を起こすようなものを食べさせない

の2点だけをシンプルに気を付けていれば良いのです。

誤嚥事故について少し解説しますが、新生児の間は誤嚥による窒息事故はほとんどありません。というのは、喉頭と呼ぶ気管の入り口が高いところにあるので、食物が気管に入らないようになってるのです。赤ちゃんって、母乳を飲みながら呼吸してるでしょ。のどの形が成人と違うからです。

生後3ヵ月頃から喉頭が下がってきて、成人ののどに近づきます。
成人は飲み込むときにごっくんするでしょう。これを嚥下(えんげ)って呼びます。

嚥下は、舌の後ろの方に食物があると、自動的にのどが持ち上がって、気管に入れないようにしながら、食物を食道へ運ぶ反射です。のどに手を当てて、唾を飲み込んでみてください。はっきりわかります。

さて、赤ちゃんがごっくんできるかを見極めるのはちょっと難しい。
だいたい5ヵ月頃からできるようになってくるのですが、

・なんとなく口をもぐもぐさせてる
・歯が生え始める
・口に物を入れたがる
・舌をごにょごにょ動かす

なんてのを目安にします。

だけど、補完食を始めるにあたり、もっと大切なことがあります。お座りが楽しくできるかどうかです。

きっちり床にお座りができてなくても構いません。赤ちゃん用のチェアーに安定して座ることさえできれば大丈夫です。姿勢が安定しないと食べるのも楽しくないですよね。

最初に食べさせるものですが、とろみを付けたものが良いのです。理由は知ってますか?

とろとろの物の方がゆっくり流れるし、食べ物が一体になりやすいので誤嚥を起こしにくいからです。

ここで多くの離乳食レシピには10倍粥を食べさせなさい、となっています。これはちょっと問題で、10倍粥なんて薄すぎてカロリーが足りないんです。いつまでも10倍粥食べてるの赤ちゃんがいますが、その分母乳やミルクが入りませんので、頑張って食べさせれば食べさせるほど栄養が不足してしまいます。

お勧めは5倍粥です。レシピ本には離乳後期と書いてありますが、離乳初期に与えても何の問題もありません。赤ちゃんの舌は強力ですので、柔らかく煮さえしていれば、簡単にすりつぶすことができます。水の代わりにミルクを使うのもひとつの方法だと思います。その方がより高カロリーです。

お粥はお母さんが作ったご飯で作っておいて、取り分けて凍らしておけば良いでしょう。いちいち作るの、面倒ですよね。育児は大変です。手抜きできるところはしましょう。

なお、きれいに食べさせる必要はありません。もともと人間は手づかみで食べるように設計されてるので、スプーンやフォークを使う方が変なんです。いくらこぼしたって大丈夫ですよ。ただ、口の周りが荒れやすい子はワセリンを塗ってから食べさせてください。

極端に不衛生なものを食べさせるのは問題ですが、きれいに拭いた机の上にこぼれたのくらい、食べさせても良いですよ。多少汚い方が腸内細菌が育って丈夫なお子さんになります。

※市販のベビーフードは清潔過ぎるのが問題です。事故を防ぐために完全滅菌してますので、それって赤ちゃん本来の食事とはかけ離れてます。
適当に汚い(細菌が多い)のが自然です。


食物アレルギーが心配なら、生後5ヵ月くらいから卵ボーロのくだいたのを食べさせて下さい。早期に食べさせておいた方が、卵アレルギーの予防になります。その他、ピーナッツバターも少量食べさせましょう。

※めちゃくちゃに湿疹がきつい子は医療機関で相談してからにして下さいね。
 当院ではミックスパウダーから開始します。 詳細はこっち


生後5〜6ヵ月 にしむら小児科的お勧め

 粉ミルクで作った5倍粥 くだいた卵ボーロ入り
 粉ミルクで作ったパン粥 少量のピーナッツバター入り

母乳や粉ミルクを飲みながら、どんどん進めましょう。わたしも美味しいものは大好きですが、赤ちゃんの方がもっと好きでしょう。

さて、生後6ヵ月を過ぎると、少し困ったことがあります。
次のグラフを見てください。



母乳は赤ちゃんにとって最高の食事なのですが、最大の問題点は鉄分が少ないということです。鉄分をわざわざ少なくしているのは、腸の中の細菌を増やし過ぎないという目的があったのだと考えられています。

※鉄不足の方が、母乳中の成分であるラクトフェリンが細菌が増えるのに必要な余剰鉄を奪うことができるからです。母乳の赤ちゃんの便は臭くないでしょ。細菌の増殖が抑えられてるのです。

完全母乳で育てると、赤ちゃんはお母さんのお腹の中でもらった鉄分を生後6ヵ月あたりで使い切ってしまいます。上のグラフのピンクのところでなくなっちゃうわけです。特に小さく産まれた赤ちゃんは、たくわえの鉄分が少ないですから、早期になくなります。

鉄は赤血球の中のヘモグロビンを作るのに欠かせません。ヘモグロビンは体中に酸素を運ぶ役割があります。鉄分が足りないと、ヘモグロビンが少なくなって貧血を起こします。ものすごい勢いで成長しないといけない時期に、貧血になって酸素が体中に行き渡らないのは問題です。

人類の進化で母乳の鉄分不足がそれほど問題にならなかったのは、補完食で鉄分が多いものを食べることが普通だったからでしょう。ヒトはもともと肉食です。おそらく母親が口の中で柔らかくした肉を赤ちゃんに与えていたのでしょうね。、

そこまでしろとは言いませんが、生後6ヵ月を過ぎた母乳栄養児には、積極的に鉄分を与えることを心がけましょう。米やパン(小麦)にはほとんど鉄分が入ってません。ほうれんそう等の野菜は鉄分を含みますが吸収が悪いので、レバーペーストがもっともお勧めです。柔らかく煮たお肉も良いでしょう。卵黄にも多くの鉄分が含まれます。粉ミルクも鉄分が強化してあるので、補完食に使って下さい。

なお、ビタミンCと一緒だと鉄が吸収されやすくなります。お茶は逆に吸収を妨げるので避けましょう。そもそも、赤ちゃんにお茶って不必要で、与えない方が良いでしょうね。

鉄分以外に不足しやすいのは、亜鉛、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD等です。
補完食はどうしても穀物が中心なので、これらの物質がほとんど含まれないからですね。

※ヒトはもともと穀物(米とかパン)で育つようには設計されてないのです。


個々の栄養をどうやって摂るかはここで書くと長くなりすぎるので割愛します。
成書を読んでください。

最後になりますが、赤ちゃんがなかなか食べてくれない、という訴えは多いですね。これはあせらず、赤ちゃんに任せることです。親が「食べさせよう」と考えるほど、ドツボにはまります。自分の思うとおりに動く赤ちゃんなんて、この世に存在しません。言うことを聞かないのが普通なんです。

食べさせるよりも、赤ちゃんが“自分で食べる”ことを優先してください。ぐちゃぐちゃ、どろどろ、こぼした〜、って母親が気にするほど赤ちゃんは食べません。
目の前の皿に色々のせて、手づかみで食べさせるのが一番の理想だと思います。こぼしちゃうので、下に新聞紙をひくのをお忘れなく。

補完食が進んで、母乳をやめる時期ですが、これは決まったものはありません。1歳を過ぎればそろそろ、って言われますけど、ヒトは本来2〜3歳まで母乳を飲むのが自然です。例えば保育所に入ってても、母乳が出るのであれば夜1回だけでも続けるのをお勧めします。中耳炎や気管支炎等の予防にもなります。

もちろん、赤ちゃんがいらない、って意志を示すのなら、おっぱいの役割はそこまで、ってことです。無理に続ける必要はありません。何事も赤ちゃんがどう考えてるのか?を中心に、進めればいいですよ。

では、いろいろ作ってあげて下さいね。手作りの補完食は、適当に汚い?ので赤ちゃんを丈夫にするし、食の楽しみを教えてあげることもできます。嬉しそうに食べるのを見ると心の底から幸せを感じますよ。応援しています。頑張って!



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※コラムの主旨は第28回日本外来小児科学会年次集会のWS26-9 離乳食を科学的に語ろうU で勉強してきたものです。