“ぜんそく”って良く聞きますよね。

正確には気管支喘息と言いますが、その定義は
「発作性に起こる気道狭窄によって喘鳴や呼気延長、呼吸困難を繰り返す疾患」
となっています。

喘息のお子さんは、よく胸がぜいぜいします。あれは気管支の音です。喘息が出た時には気管支が狭くなって息が苦しくなってしまいます。ひどいときには酸素が足りなくなるので入院することもあります。

じゃあ、なぜ喘息が起こるのでしょうか?実はこれってよく分かってないんですよね。原因がはっきりしないから対策も曖昧なままです。ここでできるだけ分かりやすく解説してみます。

ぜいぜい(以下、喘鳴)は突然前触れもなく起こることもありますが、だいたいはきっかけがあるでしょう。何かというと周囲で風邪が流行することです。兄弟が風邪を引いて、喘息持ちの子にうつると喘鳴が出て、その後に熱が出た、なんて経験はないでしょうか。風邪が喘鳴の最大のきっかけです。

風邪は様々なウイルス感染で起こる発熱、鼻汁、咳嗽などの症状ですが、軽い風邪はライノウイルスと呼ばれるウイルスによるものが多いのです。このウイルスはなかなかやっかいで、何も症状がなくてもウイルスを持っている人もいますし、感染しても軽い鼻かぜで済む人が多いです。普段は意識されないでしょうけど、全員がこのウイルスに繰り返し感染してるのです。ですが、一部の人はこのウイルスに弱いのですね。

風邪に弱い?そんなバカな?って思われるかもしれません。でも、ウイルスに対する免疫は個体によって様々です。例えば新型コロナ感染症で考えてみましょう。ウイルスを浴びても不思議に発症しない人もいるでしょう。かかったとしても軽い症状で終わってラッキーな人もいる。ところが一部の人は感染するとものすごい勢いでウイルスが増殖します。このようなウイルスに弱い人をスーパースプレッダーと呼びます。コロナ報道で聞いたことあるでしょう。スーパースプレッダーを起点にしてウイルス感染が周囲に広がることが分かっています。

スーパースプレッダー(ある種のウイルスに弱い)になるかどうかは生まれつきの遺伝的な要素と、後天的な要素があります。コロナだと高齢になることがスプレッダーの大きな要素です。一方、若くても遺伝的なな要素があればコロナ感染が重症化し、スプレッダーになってしまいます。ウイルスが感染した場合、その症状や重症度は一様ではなく、すごく幅があるってことを理解下さい。

では、風邪ウイルス(ライノウイルス)の話に戻ります。
ライノウイルスは新型コロナウイルスと同じく、RNAのウイルスです。歴史のどこかで出現したはずですが、いつから人々に感染するようになったかは分かりません。コロナも流行の毎に変異したでしょう。ライノウイルスも無数の変異を繰り返してきたはずです

現在のライノウイルスは、新型コロナのように病原性は高くはありません。例えば保育所で調べると、たくさんのお子さんがこのウイルスを持っています。言わば、常在菌(普段から体に住んでいる菌)のような存在になっているウイルスです。微生物は長い経過で病原性を減らし人と共存するようになっていくのですが、その後を見てるのでしょうね。

ここで注意ですが、ライノウイルスは常在菌(細菌)とは違い、ウイルスです。細菌は単体で生きていけますが、ウイルスはヒトの細胞を利用しないと生きていけません。ですので、ヒトに“感染”しないと遺伝子を残せません。そこで、大多数の人には弱い症状しか出ないのに、一部の人だけに強い症状を出して、他の個体に飛び散るように進化してきたわけです。そうでないと遺伝子を残せません。この一部の人が、気管支喘息の体質を持った人です。つまり喘息の人はライノウイルスのスーパースプレッダーというわけです。

ライノウイルスが喘息発作の最大の要素であるらしいってのはここに詳しく書いてます。

実際そうでしょう。喘息の体質を持つ人は、周りで風邪が流行するとひどく咳が出はじめます。ライノウイルスはほとんどの人には単なる鼻かぜでも、喘息を持っている人の中では強く増えて、呼吸器症状も強い。喘息の人を起点にしてウイルスが広がるのです。全ての人に強い症状を出す必要はない、一部の個体のみで増えて、咳で勢いよく飛び出して他に感染するのがライノウイルスの生存戦略なんです。

喘息の人でもうひとつ大切なのが、アレルギーですね。特にダニアレルギーは気管支喘息の大きな要素です。実際、小児の時のダニアレルギーの有る無しで、将来に喘息が改善するかどうかが違っています。

アレルギーはTh2を介した炎症を起こします。Th2ってなに?って思われるでしょうが、ここでは深く触れません。正確ではありませんが、通常の細菌やウイルスに対する炎症はTh1で、アレルギーの炎症はTh2くらいに考えてください。

実はライノウイルスが感染すると、Th2の炎症をひどく起こすことが分かっています。 ここ

例えばダニのアレルギー性鼻炎のある方がライノウイルスに感染したとする。ヒトは家の中のダニ抗原を年中吸ってますから、アレルギー性鼻炎のある人は常に弱い炎症を起こしているのですが、感染によってその炎症が一気に悪くなります。急にアレルギーが悪化したな、って思ったらライノウイルスが入ってきた可能性が高いです。

喘息でアレルギーがあれば、気管支で同じことを起こします。もともと体質的にライノウイルスに弱い人がいるって上に書きました。そういう体質に加えてアレルギーがあれば、ますますひどくなりやすいのは分かりますね。

さらに、やっかいなことに、ライノウイルスはアレルギーのある人でTh2の炎症をひどくするだけでなく、もともとアレルギーの無い人でもTh2の炎症を誘導することが分かっています。 ここ

Th2の炎症が続けば、アレルギーが作られやすくなるのです。つまり、ライノウイルスは人々の気道粘膜から粘膜に飛び移って感染を繰り返し、そこにアレルギーを作り、さらに感染することで咳のひどい症状を起こすように進化してきたと言えます。ライノウイルスがヒトのアレルギー体質を作ったという側面もあるのです。ウイルスの生存戦略が、人の体質まで変えてしまってるのです。

以上がライノウイルスとアレルギーで喘息が悪化するメカニズムです。現代社会では人と人の接触を避けることはできません。ライノウイルスに感染しないようにするのは無理で、出生後全ての人間に感染します。現状、ライノウイルスにはワクチンも薬もありません。なかなか対応は難しいです。
では、喘息のお子さんにどのように対処するか。ここで考えてみましょう。

まずは診断です。ここが現在の最大の問題です。

実は喘息の診断はとっても難しい、かつ過剰診断になってます。
喘息の診断基準ですが、小児アレルギー学会のガイドライン(一般向け)から引用すると

ぜん息は、発作的に空気の通り道(気道)が狭くなることで、咳や息を吐くときにヒューヒュー、ゼーゼーという笛のなるような音(ぜん鳴)が認められたり、呼吸が苦しくなる状態(発作)を繰り返す病気です。

となってます。

ぜん鳴(喘鳴)って、呼吸するときにぜいぜいするやつですけど、この判断が難しい。実は小児科医の聴診って意外にあてにならないんです。だって、小さい子は鼻が溜まると呼吸の際にゼロゼロ聞こえます。これを喘鳴だって勘違いされてることが多々あります。


多少ゴロゴロしてても、子どもが元気にご飯を食べて、良く眠れているなら大きな心配要りません。たとえ喘息だとしても本人が困ってなければ慌てて治療する必要はありませんから。


治療の必要があるのは、呼吸困難を伴う喘鳴を3度以上繰り返す場合、または入院して酸素が必要になったお子さんです。特に入院するくらいのお子さんは、大きくなっても治りにくいことが分かっています。

(参考文献)
西村龍夫,橋本裕美,絹巻宏,他.就学前の小児を対象にした喘鳴の疫学的調査.外来小児科2014 ; 17 : 145-151

喘息は風邪ウイルスに弱いという体質ですから、ものすごく幅があるものなんです。軽い喘息で延々と治療すべきかというと、そうでもない。軽いほど治療効果は低いですし、大きくなったら治っちゃいます。

喘息の素因のあるお子さん(両親どちらかが喘息等)は、ウイルスに対して過敏です。熱が出やすかったり、鼻副鼻腔炎によるゴロゴロが激しかったりします。これは上記したようなライノウイルスの感染がひどくなりやすいことに関係しています。ただ、咳や鼻のゴロゴロだけでだけで喘息と診断するわけではありません。喘息はあくまで呼吸困難を伴う喘鳴があって診断すべきものです。

この点がいま混乱してますね。咳が長引いて喘息って診断されていませんか?確かに喘息の体質はあるのかもしれませんが、それだけで喘息と診断するのは間違いです。

喘息の診断は慎重に行わないと、やたらと薬が多くなったりします。また、喘息におびえて風邪をひかすのが怖いからと、ずっと外出を避けていた保護者がいました。そんなの本末転倒で、子どもの正常な発育を妨げてしまいます。多少咳、鼻よりも“成長と発育”がもっとも大切ですよ。

※驚くほどの薬を飲んでいるお子さんもいますね。お薬手帳を見てびっくりすることがあります。当院では3種類以上薬を処方するのはほぼありません。



以下に喘息のときに使われる薬を書きます。

1、気管支拡張薬(メプチン ホクナリンテープ)
 気管支拡張薬は狭くなった気管支を一時的に広げる薬です。喘息の喘鳴が出ている際に使います。しかし効果はあくまで一時的です。気管支を無理やり広げるわけですから、ずっとこの薬を使い過ぎると“慣れ”が来て、逆に喘息が悪化することがあります。ここ 特にホクナリンテープは持続性の気管支拡張剤ですから、長期に使うと喘息予後を悪化させることになります。ご注意ください。

※気管支拡張剤は気管を拡げて喘鳴を軽減し、呼吸困難のリスクを減らすための薬です。咳を止める作用はありません。咳を止めるために気管支拡張剤を飲んだり、テープを貼るのは間違った治療です。

※ホクナリンテープは簡便だからか欲しがる方が多いのですが、効果が緩徐で発作を予防するための薬です。発作が出ている際に貼っても無意味です。発作止めには飲み薬を使います。
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2、抗アレルギー薬
 オノン、キプレス、モンテルカスト、プランルカスト等です。アレルギーの炎症の一部を抑制することで、軽症の喘息で発作を3割程度少し減らすことが分かっています。ただし、重症の喘息では単剤では無理で、ほぼ効果はありません。微妙な立ち位置の薬で、例えば年に3〜4回の軽い発作があるとするなら、1回は予防できるかな?という程度です。そのために年中薬を服用するのは現実的ではありません。
 当院だと、あまり長期には使用していません。発作を起こしやすい時期や繰り返す時期に2-3ヶ月服用してくださいとお話しすることはあります。子どもに延々と飲ませるほどの薬ではないと思います。
 なお、RSウイルス等の感染による喘鳴には効果がなく、使用は推奨されません。

※たまに何年も薬を飲んでるお子さんがいますね。目の前の症状を止めるための薬を飲み続けても、単なる対症療法に過ぎません。何年も薬を続けても、薬がなくなれば同じです。お子さんの将来は良くなりませんよ。咳や鼻の症状にこだわるのは止めましょう。

3、 吸入ステロイド
 ステロイドは現在使われている薬の中で、もっとも強力に炎症を抑えてくれます。定期吸入すると、気管支での炎症が起こりにくくなります。飲み薬に比べると効果が高く、現在の喘息治療の根幹です。成人だと携帯用の吸入器がありますが、小さいお子さんだと上手に吸えません。そこで、機械を購入してもらい、自宅でセットして吸入してもらうことになります。
※当院だと飲み薬より吸入ステロイドの治療をお勧めしています。はっきりとした効果があるからです。ただ、手間がかかるので、続けにくいのが難点です。


以上の治療は対症療法に過ぎません。治療をやめれば体質は変わってないですから、また喘息が出てしまいます。また、効果も完璧じゃないですよね。もっとすっかり治せる治療法ができれば良いのですが。


4、舌下免疫療法
 喘息はもともとの体質+アレルギーによって起こると書きました。残念ながら遺伝的に規定された体質を変えることはできません。ですが、後天的に獲得したアレルギーは治療が可能になっています。舌下免疫は、ダニやスギのアレルゲンを舌の下に入れることで、アレルギーの原因となる物質への抗体を誘導します。アレルギーの体質そのものを変えることができるというわけです。
薬や吸入は一時的に発作を減らしても、止めればもとに戻ってしまいます。免疫療法は長期に効果がありますし、お勧めの治療です。ただし、血液検査等でアレルギーがはっきりしているお子さんだけが適応になります。

5、将来の治療
 喘息の原因は分かってきているので、治療法も進歩していくと思います。ひとつはライノウイルスに対するワクチンです。過去にワクチンを作るためのトライアルもされていたのですが、ライノウイルスは変異が激しいため、ワクチンを作るのは困難だったのです。ここ

ですが、新型コロナの流行でワクチンの開発技術が飛躍的に向上しました。ライノウイルスに対するワクチンの開発に成功すれば、多くの喘息や慢性の呼吸器感染症の人の症状を抑えることができるでしょう。また世界中にまん延する風邪を減らすことにもつながります。ライノウイルスワクチンの開発にはいくつかの技術的なブレークスルーが必要ですが、将来には可能になるはずです。

もうひとつは免疫療法の発展です。現在、日本で可能なのはダニとスギだけしかありません。それ以外のアレルギーを持っている人はたくさんいますね。これも喘息の原因となります。海外ではイネ科の花粉シラカバなどでも臨床応用が進んでいます。

理論的には気道アレルギーのほとんどのものが治療可能になるでしょう。アレルギー体質そのものを改善できる時代がすく目の前に来ているようです。遠くなく喘息の根治療法が可能になると思います。ご期待下さい。

最後になりますが、実は喘息ってどんどん軽症化してるんですよ。1990年代の喘息はものすごかった。呼吸困難で生命の危機にあるお子さんを何度も見ました。喘鳴も今の比ではありません。治療が悪かったということもありますが、それ以外にも原因はありそうです。

現在の喘息は呼吸困難よりも咳が主症状になってきています。これは恐らくはライノウイルスの毒性が変化してきたことと関係するのでしょう。上記しましたが、ライノウイルスはRNAウイルスで、コロナのように激しく変異していきます。コロナもどんどん感染力を上げるように変異したでしょう。ライノウイルスでも同じことは起こっているはずです。

ウイルスが気道に感染して他の個体に飛び移るためには、咳で飛び出すのがもっとも有効です。だからライノウイルスには咳がひどくなるように変異する進化圧がかかっています。喘鳴は必ずしも必要ないでしょう。ウイルスの変化によって、現代の喘息はかつてのような呼吸困難を繰り返すものではなく、咳が主症状になってきたと言えますね。

喘息による生命の危険性は下がりましたが、咳はQOLを落とすので、鬱陶しいです。咳が主体の喘息は気管支喘息とは少し異なるもので、咳喘息って言われます。現代は咳喘息の時代で、わたしの周りにもたくさんいます。

特にアレルギーがあるとつらいです。アレルギーは乳幼児から発症します。少しでもお子さんの人生のQOLを上げるために、適切なアレルギーの治療を受けてください。


※喘息は極めて過剰に診断されています。当院は喘息の診断は長い間経過を見て、慎重に行うようにしています。乳幼児で少し長く咳が続けば気管支喘息とする施設もありますが、「こんな症状で喘息って診断されてるの?」って驚く場面も多々あります。診断が曖昧なままに効くかどうかも分からない治療を続けるのは、お子さんのためになっているか疑問ですし、家族の負担も大きいでしょう。治療の前にちゃんとした“診断”を受けてくださいね。


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