当院のHPを見てくれている人も多いみたいですね.カウンターもそれなりの数になってますし,たまに「HPを見て救われた!ありがとう.」といった電話がかかってきたりします.遠方からわざわざ受診されて,「いつもカゼで受診して,大量の薬をもらっている.飲ませるだけで大変だ.ここと同じような方針の医院を紹介して欲しい.」なんてこと言われることも.Etc...
ありがたいことです.だけど,当院はホントに小さい,町中の医院です.期待して来られるとびっくりされると思うので,遠方からわざわざ来るほどじゃないですよ(苦笑).
話を聞くと,多くの方が過剰診断や治療に苦しんでおられるようです.日本の医療制度は自由開業制だし,フリーアクセスですから患者さんもどこでも受診できる.良いことのようですが,その副作用としてサービス合戦になってしまうのですね.手っ取り早く患者さんを納得させるのは薬を処方することですので,どうしても病院に行くと様々な薬が処方されたりすることになります.
また,知っておいて欲しいのは,医者の診断はとっても曖昧で,主観が入るのを避けることはできないということです.治療を行うことが目的になると,過剰な診断になってしまいます.過剰診断は治療優先の医療の裏返しになっているものです.
カゼは基本的に薬が効きません.特に小児では鼻水を止める薬,咳を止める薬など,飲んでもナンセンスで,どちらかというと症状が長引くことになってしまいます.治すという目的からは逆ですし,逆に様々な合併症のリスクを上げることになってしまいます.少し考えても分かると思います.咳で治る病気に咳止めを処方するわけだから,,
最大の問題点は,普通の開業医は“カゼ”の勉強などしていないってことです.大学で研修して,そのまま開業して診療するわけですので,来る患者がみんな肺炎に思えてしまうわけです.自慢じゃないがわたしもカゼの研修など受けていません.カゼなど自然に治るから,患者が欲しがる薬を出しておけ,,ってのが一般的な大病院の医師の考えであり,わたしもそうでした.
多くの先生は,そういった医療を行っている大病院で研修した後に開業して,プライマリ・ケアの患者さんを診るようになります.だけど,それまで行っていた医療を簡単に変える事はできません.医師の方も今までカゼには必ず何らかの処方をしてきたわけですから,“何もしない”ことを怖がるのですね.患者さんも薬があった方が喜ぶので,変えるきっかけもありません.逆に言うと,そういった診療スタイルを変えていくのはよほど問題意識の高い医師か,若い医師に多いように思います.
また,プライマリ・ケアの診療の現場では,“まずはカゼありき”ですので,その部分の診療が狂ってると全部がおかしくなります.それで戸惑っている患者さんも多いようですね.単なるカゼに対して,驚くほど様々な診断名が付けられていることがあり,びっくりすることもあります.
※カゼはあらゆる症状を起こします.熱,咳,鼻,ぜいぜいもありますが,目やにや皮膚のぶつぶつ,じんましなどもカゼが原因になることが多いのです.乳幼児は非常にたくさんのウイルスに感染するからです.
わたしも,現在のスタイルになるまでは10年以上も掛かりました.そういった医療にどっぷり浸かっていたので,なかなか変えるのは難しかったわけです.しかし,多くの志を同じくする医師とのディスカッション,海外文献の検討,国内のデータを作るという地道な作業を続けて,やっと現在の診療スタイルに落ち着きました.小児科医を20年以上もやってきて,やっと「風邪は自然に治るよ」と言えるようになったわけです.そんなこと世界の常識なのですけどね.しかし,日本で考えを変えるのは,大変な困難があるということをご理解下さい.
さて,「当院と同じような姿勢の医療機関がどこにあるか知りたい」ということを良く聞かれます.
これがなかなか難しい.わたしも先方の先生の診療スタイルとか,考え方までは良く分かりません.一つの目安は,日本外来小児科学会に入会しているかどうか,です.この学会は基本的にプライマリ・ケアのための学会ですので,風邪の子どもさんのための勉強をする機会が多いと思います.なお,良くある“小児科学会専門医”というのは全く当てになりません.小児科学会ではカゼの勉強などほとんど奨励していません.病院向けの学会ですので,そこで勉強すればするほど,逆に過剰診療になりがちになってしまうということさえあります.実はわたしも資格を持ってるのですが,プライマリ・ケアの場にはそぐわない資格だというのを痛感します.また,年配の医師は,無試験でこの資格を貰っています.単に昔に小児科学会に入会した,,,というだけで貰えたわけですから,何の意味もありません.
その他に簡単な見分け方として
1, ワクチンを打つように指導してくれる.
小児医療でもっとも大切なのはワクチンを打つことです.それでほとんどの危ない病気から守ってくれます.
2, 抗生物質の処方が少ない
風邪の時に抗生物質を飲んだ方が良いのは,概ね10回に1回くらいです.
毎回貰っているとすれば,それは誤った医療です.
3, 診察の時に鼻や耳を見る
特に鼓膜を見ることは大切です.こういった診察をしないと風邪の診断ができません.
診断ができなければ必ず過剰診療になります.
4, 納得のいく説明をしてくれる.
病院は薬局ではありません.病気の説明をするところです.
かぜ薬だけを貰いに行くというのは,子どもにとって健康被害になるだけです.
ただし,説明ってのはコミュニケーションですから,これはどうしても相性があります.
もうひとつ,どんな時に病院を受診すれば良いか?ということも聞かれます.
例えば,カゼで熱が出た,咳や鼻が出た,ということであれば,どこかの病院を受診しても,抗生物質やカゼ薬をもらうだけですので,特に意味はありません.つまり受診する必要はありません.カゼかどうか?が大切ですが,これは親御さんがご自分で判断して下さい.
子どもさんをずっと見ているのは親御さんですから,普通の小児科医より親御さんの判断の方が確かですよ.また,子どもさんの状態を十分に把握できる能力は,子育てするうえでの最低条件なわけです..その症状が危険か?危険でないか?を判断する能力を身に着けないといけないのです.
※もちろん最初は無理だと思いますので,誰かにアドバイスをもらいましょう.判断能力を養うために受診するのです.治療のためではないですよ.たまに,毎回カゼの度にオロオロして救急に行く,という親御さんもおられます.それは止めましょう,そもそも,ご自分がしんどいでしょうし,子どものためにもなりません.
子どもの状態は24時間常に変化します.ずっと傍に小児科医がいてくれるわけでもないでしょう.親御さんが自分で経験値を上げるしかないのです.
とは言っても,誰でも子育ては不安でいっぱいでしょう.お気持ちはよーく分かります.
一応の目安として
1, 笑顔が出ている子は,熱や咳,鼻があっても緊急性はゼロです.
2, 普段どおり食べていれば,緊急性はゼロです.
は覚えておいて下さい.
逆に
1, けいれんや意識障害があれば緊急性有り!です.
2, 極端に呼吸が速いときも緊急性有り!です.
3, 全身の色が悪いときも緊急性有り!です.
こっちもよーく覚えておいて下さい.
※もっとも熱が上がるときは体の色が悪くなりますが.上がりきってから判断しても良いかも.
※症状別の受診の目安を書いておきます.
1,発熱
ヒブや肺炎球菌のワクチンが済んでいれば緊急性はほぼありません.発熱3日以上続けば受診して下さい.生後6ヶ月までなら24時間以内の受診をお勧めします.
2,咳嗽
1週間以上続くとき
3,鼻汁
2週間以上続くとき
4,ぜいぜい
呼吸が速いなら緊急で!元気があって,眠れるようなら24時間以内の受診で可
もちろん,上に書いたような緊急サインは見逃さないようにしてくださいね!
実は小児科医もチェックしているのは上記くらいなのです.まあ,これを読んでいる大多数の方よりは場数を踏んでるし,それなりには悪い子を見ているので判断はできますけど,医者だって大したことはできないわけです.
そんなので良ければ,いつでも受診して下さい.もちろん,子どもさんのことを考えて誠心誠意努力はします.わたしはあまり薬を使わない小児科医かもしれませんが,必要な薬をあえて処方しないってことはあり得ません.飲んでも経過が変わらない薬は子どもさんのためにならないので処方しませんが.
※ちなみにかぜ薬と言われている薬のほとんどは何の効果もありません.水やシロップを飲むのと変わりませんよ.水を飲んでた方が安全かも(苦笑).
医療制度の話に戻りますが,,,
日本は簡単に受診できるので,症状が出ればすぐに受診される傾向にありますね.当院を受診される患者さんも熱が出て1日ないし2日くらいで受診されます.
そういった時に受診しても,そもそも診断が付かない,診断が付かないから色々な薬を貰う,ほとんどの薬には意味がないわけですが,薬を飲もうが飲むまいが,
9割は改善しますが,1割は症状が続いたり,悪化したりするという結果になります.
保護者を不安にさせるのは,「熱が出たのに放っておいて,肺炎になったらどうしよう?」ということだと思います.不幸にして肺炎になった場合,もしかして,十分な治療がされなかったのか?と思われるかもしれません.その気持ちも分かります.
しかし,何をどうしようが肺炎になるときはなります.ズバリ,ほとんどの呼吸器感染症(熱,咳,鼻ですね!)で,悪化を薬で防ぐことはできないのです.例えば風邪の初期から抗生物質を飲むとします.後で肺炎を起こす率は?基礎疾患のない子どもさんでは全く変わりません.むしろ最初から抗生剤を飲んでいれば,耐性菌が増えて二次性に細菌性肺炎を起こした場合は治療しにくいという結果になってしまいます.ウイルス性肺炎に関しては,効く薬がないのですから手の打ちようがありません.良く使われる咳止めのテープなど,屁のつっぱりにもなりません.眠りにくいだけです.
これを読んでいる方の中でも,◎◎医院を受診したけど,後で肺炎で入院になった!って経験をしたり,噂話を聞いた人も多々いると思います.こういった事実も,一生懸命治療しても同じ,ということを証明しているわけです.
肺炎は防ぎようがないのか!大変だ!と思われるでしょうね.
ですが,よーく考えて下さい.肺炎と診断される子どもさんはたくさんいます.しかし,ひどい基礎疾患のある子どもさんを除き,肺炎で亡くなる子はいません.肺炎になっても,みんなどこかの時点で治ってるのです.ひどくなった時に適切に受診するということさえできていれば,肺炎で亡くなることはありません.わたしも勤務医時代は肺炎をたくさん治療していましたが,実は病院の医師にとっては“肺炎”はごく簡単な患者さんなのです.必ず治るからです.
特殊な合併症が出て,不幸にも亡くなる子どもさんがごく稀にいるのは確かですが,そんな子がいれば,医局内でうわさになるほど稀なことだし,飲み薬で予防するのなど,とてもじゃないが無理です.そもそも何の薬も効かない特殊な病態だから亡くなるわけですから.ちなみに,そういった肺炎で最も多いのは麻疹(はしか)です.ワクチンをきちんと受けて下さいね.
というわけで,肺炎を予防するために病院に走るのはナンセンスです.病院に行く途中に交通事故を起こすことの方が危ないですよ.
じゃ,受診する目的は何だ?受診しなくても良いのか?って思われるかもしれませんね.
実は,小児科医が診察する目的は,その時点で様子を見て良いかどうか,今の症状で待っていても良いのか?ということを判断して,保護者の方に説明することなのです.自然に治るという説明がないと,保護者の方もいつまで経っても風邪引くたびに不安になってしまうでしょう.わたしは,そういった不安感を取って,できるだけ子育ての負担やストレスを軽減することが,プライマリ・ケアで必要だと思っています.
実は同じように考える小児科医は徐々に増えつつあります.以前はどこを受診しても抗生物質をもらっていましたが,最近は何も薬を貰わずに帰ってきました...なんて話もパラパラ聞くようになってきました.根気良くそういった先生を探して下さい.
またそういう先生は色々勉強しているということなので,HPにもそのような旨を書いておられることが多いですよ.参考にされてはどうでしょうか.
今回は雑談のような形で書かせていただきましたが,プライマリ・ケアの小児医療は色々な問題点を抱えてしまっていますね.多くの子どもたちの健康と,ご両親が子育てストレスから開放されれば良いのですが.わたしの望みはそれだけです.