アトピー性皮膚炎と喘息は、まとめて「アレルギー疾患」と呼ばれることが多い病気です。もちろん、どちらにもアレルギー反応や免疫の偏りは関係しています。しかし、それだけで説明しようとすると、少し無理があります。なぜなら、これらの病気はここ数十年で明らかに増えてきたからです。人間の遺伝子は、そんな短期間で大きく変わるものではありません。だとすれば、増加の理由は、私たちの体が急に変わったからではなく、私たちを取り巻く環境が大きく変わったからだと考える方が自然です。

人の遺伝子は多様です。皮膚が強い人、弱くてすぐに皮膚炎を起こす人、ウイルスに強く風邪ひとつ引かない人、何度も風邪を引くし、ゼーゼーしやすい人、といった体質の違いがあります。これは現代になって突然生まれたものではなく、昔から人類の中に存在していた遺伝的なばらつきです。もちろん、病的なほど皮膚や気道が弱い体質があれば、治療法のない時代では生き延びることはできなかったでしょう。しかし、軽い乾燥肌や、少し気道が過敏な程度であれば、生存に大きな不利はなく、集団の中に残ってきたと考えられます。

原始時代の子どもにも、乾燥肌の子、湿疹が出やすい子、咳が長引きやすい子はいたはずです。ただ、それが今のように、アトピー性皮膚炎や喘息として長く続く病気になりやすかったかどうかは別問題です。病気として表に出るかどうかは、体質だけでは決まりません。生活環境、身体を洗う習慣、空気環境、感染の受け方、微生物との接し方によって大きく左右されます。

現代社会では、生活環境が急速に変わりました。室内で過ごす時間が増え、空調によって空気は乾燥しやすくなりました。石けん、ボディソープ、シャンプー、抗菌製品を日常的に使うようになり、抗菌薬を使う機会も増えました。一方で、土や草木、動物、さまざまな自然の微生物に触れる機会は減っています。家庭は小さくなり、兄弟も少なくなりました。その一方で、乳幼児期から保育園などの集団生活に入り、特定の呼吸器ウイルスに濃厚にさらされる機会は増えています。

つまり現代では、「多様で自然な微生物との接触」は減り、「人工的で偏った刺激や感染」が増えたのです。この変化が、もともと少し弱い皮膚や気道を持つ子どもたちに、病気を起こしやすくしているのです。



アトピー性皮膚炎を考えると、皮膚は単なる体の表面ではありません。皮膚は外界から体を守るバリアであり、そこには表皮ブドウ球菌など多くの常在菌が住んでいます。これらの常在菌は、皮膚を守る生態系の一部です。ところが、もともと乾燥しやすく、刺激で炎症を起こしやすい皮膚では、このバリアが不安定です。そこに洗いすぎ、乾燥、汗、よだれ、衣類の摩擦などが加わると、炎症が起こりやすくなります。

炎症が起きた皮膚では、常在菌のバランスが崩れ、黄色ブドウ球菌が増えやすくなります。黄色ブドウ球菌は、健康な皮膚ではそれほど増えませんが、炎症を起こした皮膚では優位になりやすい菌です。



この菌が増えると、毒素や酵素によって皮膚の炎症がさらに悪化し、かゆみが強くなります。子どもはかゆいので皮膚をかきます。かくことで皮膚のバリアはさらに壊れ、また黄色ブドウ球菌が増えやすくなります。こうして、皮膚の炎症、かゆみ、掻破、細菌叢の乱れが悪循環を作ります。



※ステロイド軟膏はかゆみを抑える薬ではなく、炎症を抑える薬です。炎症を抑えることで悪循環がなくなればかゆみがなくなります。なお、近年開発された注射薬はかゆみを強力に抑えます。すると悪循環が止まり、アトピーが良くなります。



このように考えると、アトピー性皮膚炎は単なるアレルギーではありません。乾燥しやすい皮膚という体質に、現代の洗浄習慣、乾燥環境、皮膚細菌叢の乱れが重なって起こる病気と考えた方が分かりやすいのです。









喘息も似た構造で考えることができます。気道も皮膚と同じように、外の世界と接する上皮です。空気中のウイルス、細菌、ほこり、煙、大気汚染物質、温度や湿度の変化に常にさらされています。もともと気道の上皮が弱い子、ウイルスに対する反応が強く出やすい子、炎症を起こしやすい子では、ライノウイルスやRSウイルスなどの感染をきっかけに、気道の炎症が強く起こります。特に乳幼児期にウイルス感染でゼーゼーする子は、その後に喘息と診断されることがあります。



ただし、小さい頃の感染がすべて悪いわけではありません。さまざまな微生物に適度に触れることは、免疫を育てる面もあります。多様な微生物に薄く広く触れることは、免疫の成熟に有利かもしれません。一方で、気道が弱い子が、乳幼児期に特定のウイルスによって強い下気道炎症を起こすと、喘息のきっかけになる可能性があります。

※赤ちゃんの時にRSウイルスやライノウイルスで入院するほどのゼーゼーがあったお子さんは、その後に喘息になるリスクが高いですね。


まとめると、アトピー性皮膚炎や喘息は、現代になって急に子どもたちの体質が変わったのではありません。昔から存在していた遺伝的な体質の違いが、現代の乾燥した室内環境、身体を洗う習慣、抗菌薬、都市化、自然との接触の減少、集団生活で感染を繰り返すこと、などによって、病気として表に出やすくなったものと考えられます。

その意味で、これらは単なる「アレルギー疾患」ではなく、皮膚や気道が現代環境の中でバランスを崩して起こる病気 と考えると理解しやすくなります。治療や予防でも、単にアレルギー反応を抑えるだけでなく、皮膚や気道を守ること、洗いすぎないこと、炎症を早めに抑えること、微生物との関係を壊しすぎないことが大切になります。

※稀にアレルギーの薬を何年も飲んでるお子さんがいますね。アレルギーの薬は症状を抑えるだけで、体質を変えることはできません。1年中飲む必要はなく、悪化した時だけで良いですよ。




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アトピーと喘息はなぜ増えた?